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出口 治明
2017/06/16

ライフネット生命創業者・出口治明氏が選んだ最高のビジネス書

経営者はとにかく本を読め #2

source : 文藝春秋 2014年7月号

genre : ビジネス, 働き方, 企業, 読書

「国際ビジネスの現場」で求められるものとは―古典の重要性

 日本生命保険に勤務していた時、三年間ロンドンに駐在したことがあります。現地のトップビジネスマンと接して感じたのは、彼らと日本人では読んでいる本が違うということです。

 アダム・スミス、デカルト、ヘロドトス……、欧米のトップビジネスマンは、そうした古典を当然のように読んでいました。一方、日本の経営者は例えば司馬遼太郎作品のような、面白く清涼感のある本を好む人が多い。もちろん、私も司馬作品は大好きで、ほとんどの作品を読んでいます。ただ、あの物語を歴史的な史実だと錯覚してはいけない。あくまで娯楽小説として楽しむべきでしょう。

 こうした読む本の差は、教養の差として表れてきます。商売は人と人との戦いです。特に国際ビジネスの現場では、マネジメント層の優劣を競い合いますから教養は大きな武器になる。ところが、日本のマネジメント層は教養に乏しいと言わざるを得ません。

 では、どうすればいいのか。教養を身につけるには、娯楽小説ではなく、古典をじっくりと読むのが一番です。京都大学での学生時代、恩師の高坂正堯先生が常々「古典を読んで分からなければ、自分がアホやと思いなさい。現代の書籍を読んで分からなければ書いた人がアホやと思いなさい(即ち、読む価値がない)」と仰っていたことを、今でも鮮明に覚えています。

 何百年、何千年という時代の洗礼を受けて脈々と生き延びてきた古典は、無条件に素晴らしい。そもそも人間の脳は一万年以上も前からほとんど進化していないのですから、考えることも悩むことも今と変わりはありません。つまり古典とは、現代にも通じる人間の本質を教えてくれるものなのです。

 私は「活字中毒」で、本を読まないと落ち着かないタイプの人間です。特に古典や歴史書はこの五十年で、五千冊以上は読んできました。ライフネット生命を立ち上げて以来、さすがに読む冊数は減りましたが、今でも移動中や就寝前の一時間を利用し、週に最低四、五冊は読むことにしています。