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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2017/05/21

『ブラッド・ファーザー』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

真のヒーロー像

 誰かが本当に危機に陥っているとき(個人でも国家でも)、助けるなら、命がけじゃなきゃむりだ。生半可な親切心や、ナルシズムや、スケベ心で救えるものなんて、この世になかろうと思う。

 たとえばだけど。「あるところに可哀そうな女の子がいた。話をよく聞いてあげたら、救われたと感謝されて、つきあえた」なんてお話は、文字じゃなくて紙にこすりつけられた鼻クソだ。

 わたしがB級映画のアクションヒーローたちを永遠に好きな理由は、そういう本質的で大切なことをよく知ってる人たちだからだ。ヒーローの多くは、普段はヘナチョコだったり、クズだったり、ともかく、ヒドイ。でもいざなにかが起こり、迷った末、自分の力で事態を変えようと決めたときには……? 彼らは命をかけるのだ。

 そうなったらもう、手に汗握って応援するしかない……。

 この映画の主人公は、メル・ギブソン演じるジョン。前科者で、貧しいトレーラーパーク暮らし。ある日、父の服役中に家出したっきり行方不明だった娘リディアから連絡が入る。罠に落ちてメキシコギャングに追われてるの、と。

 ギャングがリディアを追ってトレーラーパークを襲撃。ジョンはリディアを連れ、危ういところで車を発進させる。

 そのときのメル・ギブソンの横顔が、もうー。台詞はなくとも、「必ず娘を助ける」と誓っていること、生きて再び家に戻るつもりがないこと……つまり、命をかけると決めたことが伝わってくる。あっ、ヒーローだ!ヒーローだよ。となると、あとはもう……。

 手に汗握って、最後まで応援するしか、ない……。

 そして、真の英雄とは、つぎの英雄を産みだす有機的存在でもある。逃避行のあいだにリディアも、逃げ回る少女から、人を守れる強い大人へと成長した。父のような人間に。そのときこそ二人の道は分かれる……というところもとってもよかったの。

© Blood Father LLC, 2015
INFORMATION

『ブラッド・ファーザー』
6月3日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー!
http://b-father.jp/

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