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弘兼 憲史
2017/06/14

『島耕作』シリーズ著者・弘兼憲史が語る“新しいリーダーの条件”

「え? 私が?」――社長に“向上心の塊”は少ない

source : 文藝春秋 2016年2月号

genre : ビジネス, 企業, 働き方, 経済

東芝問題が世間を賑わせる昨今、企業のリーダーの資質が改めて問われている。人気マンガ『島耕作』シリーズの著者であり、執筆にあたり数多くの企業の経営陣を取材してきた弘兼憲史氏が、リーダーに必要な条件を語った。
(出典:文藝春秋2016年2月号)

リーダーは“2タイプ”に分類できる

『島耕作』シリーズを描き続けて、もう三十三年になり、平社員だった島は会長まで登りつめました。課長や部長の時代はぼく自身のサラリーマン経験から想像で描けましたが、取締役や社長に昇進すると、そうはいきません。たくさんの企業の経営者にお会いして、話を聞かせていただきました。そんな中から私が考える、リーダーのあるべき姿についてお話ししたいと思います。

 島耕作は、強烈な個性の持ち主というよりも、人の意見をよく聞くバランス調整型の主人公にしています。リーダーシップはありますが、ややおとなしい感じに設定した。それには理由があります。

 現実にリーダーになる人は、ふた通りです。ひとつは、ソフトバンクの孫正義さんやユニクロの柳井正さんのような、オーナー企業のリーダー。もうひとつは、島耕作のようにサラリーマンとして社内を一歩ずつ這い上がってきたリーダーです。この両者では、冒険の仕方が違います。

 オーナー企業のリーダーは、時として思い切った勝負に出ます。孫さんでいえばボーダフォン買収やアメリカの移動通信大手スプリントの買収など、失敗したら会社がえらいことになる大勝負に、恐れず挑戦する。柳井さんも自分でドーンと引っ張ってきたあと、部下に任せてダメなら「俺がもう一回やるぞ」という体質や力をもっている。ぼくが勤めていた昔の松下電器でも、松下幸之助さんが一度リタイアして退かれたあと、うまくいかないとき経営現場に戻ったことがありました。ああいう姿は、オーナー企業や創業者ならではのリーダーシップだと思います。一方、下から堅実に上がってきたサラリーマン社長は、一か八かの大勝負になかなか出にくいものです。株主や社員、下請けさん、関連企業といったステークホルダーの人たちの生活が全部かかっているという意識が働くせいです。何年かの任期を終えれば代替わりするのですから、「自分の代で下手をこいたら大変だ」という思いもあるはず。そのため、大きく沈まないけれども、大きく儲けもしないという経営になりがちです。

 功罪相半ばするとは思いますが、オーナー経営者とサラリーマンから上がってきた経営者との違いは、そうした部分に現われる気がします。

リーダーに求められる条件―短期改革には“嫌われ者”が必要

 そして、どんな企業のリーダーにも必要な条件は、はっきりと指針を打ち出せる人であることです。これはヒロカネプロダクションの社長である私の体験からもいえることですね。何のために働いているかが漠然としたままだと、仕事のモチベーションは下がります。この会社はいま何をやりたいのかを明確に見せ、「こういうことをやるから、君らもついてきてくれ」とビジョンを示す必要があります。その際には「朝令暮改もアリ」だとぼくは思っています。時代が変わり、たとえば円相場が変わるだけでも経営は想定通りにいかないのに、過去の方針に固執するのはおかしい。状況に合わせて、前言を翻す勇気も必要です。

 企業の業績は、社長によってかなり変わるものです。短期に成果を出すことが求められる場合と、長期に会社を存続させる場合では、求められるリーダーの条件は違ってきます。

 人間は、厳しく締め付けられるとすぐに結果を出すものらしいですが、長続きはしません。締め付けがずっと続くと嫌になってしまい、忠誠心も薄れ、逆効果になるのでしょう。

 だから短期改革をするための人材には、相当厳しいというか、みんなから嫌われてもやり遂げるリーダーが必要です。松下電器では二〇〇〇年に中村邦夫さんという怖い社長が出て(笑)、「破壊と創造」をモットーにドラスティックな改革をしました。なんといっても松下家の世襲を切り、会長時代には社名をパナソニックに変更した。サラリーマン社長としては、かなり異色だった気がします。

 ぼくが早稲田の法学部を卒業して松下電器に入社したのは、一九七〇年です。幸之助さんが、まだ会長として本社にいらっしゃいました。ぼくはこれまで、たくさんの企業の社長や総理大臣にもほとんどお会いしてきました。みなさんそれぞれオーラはありましたが、やっぱり幸之助さんのオーラはすごかった。本社の廊下を歩いてこられて、すれ違うときに立ち止まってお辞儀する程度ですが、みんなが思わず立ちすくむような迫力がありましたよ。

「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助 社員が「思わず立ちすくむような」迫力の持ち主だった ©getty
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