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吉野 太喜
2017/05/26

実は合理的!? ゲーム理論で解くトランプ戦略

最新理論で「今」を読む

衝動的ですぐキレる、ナンセンスな政策で呆れさせる――
一見、奇異な言動がプラスに転じる逆転の論理

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 ゲーム理論というと、ゲーム=遊戯を扱うものと思われる向きもあるかもしれない。たしかに囲碁や麻雀なども対象となりうるのだが、「ゲーム」の意味するところはそれよりもずっと広く、およそ人と人とが関係する状況のほとんどが含まれる。自分だけでなく相手の行動も考慮に入れて意思決定を行う場面で、広く活用できる便利な道具である。

 ゲーム理論をひとことで定義するなら「戦略的状況における意思決定理論」となる。戦略的状況とは、自分の行動が相手の利害に影響し、また相手の行動が自分の利害に影響する状況を指す。他者の存在を、意思なき主体と捉えるのではなく、それぞれの思いを持って行動する主体と捉えるところに特徴がある。数学者ジョン・ナッシュ(その悲劇的な生涯は『ビューティフル・マインド』として映画化された)などにより、応用数学や経済学の世界で発展を遂げ、現在では生物学・心理学・社会学・国際政治など、さまざまな分野での共通言語となっている。

 本稿では、米国の外交政策を題材に、ゲーム理論の紹介をしてみたい。トランプ大統領の、一見、奇異に見える言動は、何かの役に立っているのだろうか。もしそうだとすれば、どういったメカニズムによるものだろうか。

北朝鮮戦略のゲーム理論

 米国と北朝鮮の間の緊張が高まっている。北朝鮮は、米国本土を直接攻撃する能力も備えうる兵器であるICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験が最終段階にあると宣言した。それに対しトランプは「北朝鮮と大規模な紛争に発展する可能性がある」と発言し、オバマに比べて非常に攻撃的な姿勢を見せている。米軍は北朝鮮のミサイル・核兵器関連施設への空爆による奇襲も検討しているという。

 トランプは米国の歴代大統領のなかでも、その言動が最も予測困難な人物の一人であるといって良いだろう。その性格は軍事面でも発揮されている。シリアでは、アサド政権による化学兵器の使用があったとして、突然、空爆を行い、国際社会を騒然とさせた。こうしたトランプの言動の予測困難さは、北朝鮮情勢にどういった影響を与えるだろうか。

【図1】は、従来の北朝鮮と米国の関係を「ゲームの木」で表現したものである。

 ゲームは左から右に進行する。まず北朝鮮は米国を「挑発する」か「挑発しない」かを選択する。挑発しなかった場合、ゲームは何事もなく平和に終了する。このとき北朝鮮・米国の得る「利得」(ゲームの得点)は両者とも0とする。挑発した場合、米国は北朝鮮を武力で「攻撃する」か、経済制裁などにとどめて「攻撃しない」かを選択する。攻撃する場合、北朝鮮は致命的な損害を被るが(利得は-100)、いっぽうで米国の負担も大きい(利得は-10)。攻撃しない場合、北朝鮮は威信を高め(利得は1)、米国は相対的に威信が低下する(利得は-1)。

 ゲームの木を解くには、時間の流れとは逆に、右から左の順番で考える。まず、北朝鮮が挑発した場合の、米国の行動を考える。攻撃すると利得は-10、攻撃しないと利得は-1なので、攻撃しないほうを選ぶ。

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