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早見 和真
2017/05/29

理不尽な上下関係や暴力。PL学園の“ヤバさ”の正体とは?

早見和真が『永遠(とわ)のPL学園 六〇年目のゲームセット』(柳川悠二 著)を読む

『永遠(とわ)のPL学園 六〇年目のゲームセット』(柳川悠二 著)

 二十年以上前、僕は桐蔭学園という高校で野球をしていた。当時は全盛と呼べる時期で、大抵の相手には負ける気がしなかったが、唯一、その立ち居振る舞いだけで圧倒されそうになった相手がいた。胸に誇らしげに『PL GAKUEN』と綴られたユニフォームを着た選手たちだ。

 当時の球児で、憧れを持って「PL」を見ていない者はいなかったと思う。一方で、遠く、神奈川で野球をしていた僕らにも「PLはヤバい」という声は届いていた。その「ヤバさ」の中身について、つまりは理不尽な上下関係や暴力について、本書はしつこく掘り下げていく。

 その事実に迫る〈第三章〉は、サブタイトルを追うだけでも歪(いびつ)さが垣間見られる。『鬼と呼ばれた男』『「三年神様、二年平民、一年奴隷」』『鉄の掟』『「理不尽」が力の源』……。描かれているのは「高校生の部活動」とはかけ離れた実態だ。目を覆いたくなる人はいるだろうし、当然、肯定はしたくない。それでも、ここには間違いなく彼らが支えられていたものの正体が記されている。彼ら自身の正体と言ってもいいだろう。

 本書は、かつて栄華を極めながら、昨年、傍目には唐突とも映る廃部へと追い込まれたPL学園野球部を追いかけたドキュメンタリーだ。そして、グラウンドにいた彼らがなぜあれほど凜とし、強そうに見えたのか、〈PL教〉という信仰にまで切り込んで解き明かした「歴史の書」でもある。

 野球に関心のない人にも……というステレオタイプな論調に、僕自身はあまり意味を感じない。でも、心の中に少しでもアルプス席の人文字の、バッターボックスで胸に手を当てる選手たちの、何よりもあの栄光の時代の記憶が存在する人ならば、間違いなく貪り読むはずだと断言できる。

 また高校野球の季節がやって来る。でも、そこにPLはもういない。その物悲しさは甲子園の決勝戦が終わったときのそれとよく似ている。

やながわゆうじ/1976年、宮崎県生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始、出版社勤務を経て独立。高校野球の取材は2005年から。以降、春夏の甲子園取材をライフワークとする。著書に『最弱ナイン』など。

はやみかずまさ/1977年神奈川県生まれ。作家。2008年、『ひゃくはち』でデビュー。著書に『イノセント・デイズ』(新潮文庫)など。

永遠のPL学園: 六〇年目のゲームセット

柳川 悠二(著)

小学館
2017年3月15日 発売

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