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連載阿川佐和子のこの人に会いたい

尾崎世界観「悔しさを小説にぶつけるしかなかった」――阿川佐和子のこの人に会いたい 前編

ロックバンド・クリープハイプのフロントマンのみならず、作家として小説『祐介』をヒットさせた尾崎さん。新刊『苦汁100%』での絶妙な言葉選びの秘密、日本のバンドシーンを取り巻くいびつな状況もうかがいました。

◆ ◆ ◆

いまのバンドはフェスで盛り上がってないと、売れていないと思われてしまう状況なんです。

阿川 今回、初めて尾崎さんがボーカル&ギターを務めているバンド・クリープハイプの曲を聴かせていただいたんですけど「すげえ」と思いました。

尾崎 ありがとうございます。

阿川 なんか聴いたことがある声だなと思ったら、映画『百円の恋』の主題歌だった「百八円の恋」もクリープハイプの曲だったんですね。いまさらで大変失礼いたしました(笑)。さらには文章のほうでも活躍されていて、昨年出版された処女小説『祐介』は5万部に迫ろうとしていると聞いてます。ちなみに音楽のほうはどのくらい定期的にライブを?

祐介

尾崎 世界観(著)

文藝春秋
2016年6月29日 発売

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尾崎 ツアーがある時はまとめてライブがあるんですけど、ない時でもいまは1年中フェスがあるんですよ。

阿川 フェス?

尾崎 何組ものアーティストが集まるイベントですね。大きいフェスだと、ステージがいくつもあって同時に色んなバンドが演奏しているので、お客さんはその時間ごとに観たいバンドのところに行ったりするんです。

阿川 ひとつのフェスには同じような音楽ジャンルのアーティストが集まるんですか?

尾崎 僕たちの場合はロックフェスですけど、その中でも種類があって、騒ぎたい人が行くようなロックフェスもあれば、静かに聴きたい人が行くようなものもあるんです。

阿川 尾崎さんはどこら辺に?

尾崎 その中間あたりにいるような気がします。ワーッと騒ぐわけでもなければ、ゆっくり聴くジャンルでもなく。

阿川 そういうライブ活動、フェス活動はもう何年くらい?

尾崎 フェスに出られるようになったのはメジャーデビューをしてからなので、この5年くらいですね。お客としても昔から行ってみたかったんですけど、機会がなく、そうすると自分が出られないのに観るのは悔しいと思ってさらに足が遠のきまして(笑)。結局、初めて行ったのは自分たちが出演したときでした。

尾崎世界観 ©文藝春秋

阿川 出てみていかがでした?

尾崎 1万人以上のお客さんの前で演奏することもあるので、現実感がなくなるような凄い感覚を得られるんですけど、一方で、ロックフェスってけっこう薄っぺらい感じもしてしまいますね。

阿川 薄っぺらいんですか?

尾崎 僕はそう思っています。バンドも人を集めるために有名な曲ばかりやるし、CMとか予告編みたいですね。ちゃんとしたワンマンライブとは違うかなと思います。

阿川 つまりそのバンドのダイジェストみたいな……?

尾崎 そんな感じです。ただ、いまのバンドはフェスで盛り上がってないと売れていないと思われてしまうんですよ。本来ならバンドの音楽の本質を見てもらうべきところなのに、人を集めて、みんなが手を挙げたり飛び跳ねたりしている空間を作らないといけない。自分でもその矛盾は分かっているんですけど、情けないことに、自力がないから出ないわけにはいかないんです。出ないと忘れられていくといいますか。

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