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倉本 聰
2017/06/03

倉本聰 視聴者を馬鹿にしたテレビはつまらない #1

9年ぶりの連ドラ「やすらぎの郷」で描いた、楽しく、幸せな「終活」

なぜか「陽」の人間ばかりが集まった

倉本聰氏 ©文藝春秋

 長年、脚本家をやっていると、書いていて楽しい作品と辛い作品があります。今回はとても楽しかった。物語が湿っていないからです。

 人間には、「陰」と「陽」の2種類があります。王貞治が「陰」なら長嶋茂雄は「陽」。高倉健が「陰」なら石原裕次郎は「陽」。僕は普段、ドラマを作る時は陰陽2つのタイプの俳優を組み合わせてキャスティングするのですが、なぜか、今回は「陽」の人間ばかりが集まってしまった。結局、人間、齢を重ねると「陽」のタイプが生き残るのかもしれません。

 一度だけ撮影現場に行ったところ、明るい雰囲気でつい笑ってしまいました。皆、トシだから長い台詞が覚えられない。ミッキー・カーチスは、「俺は(台本で)3行以上は無理だから。3行革命なんつって」と言ってカンニングペーパーを貼りまくるし、五月みどりは「私全然覚えられないの」って、泣き付いてくるし。もう僕は現場には行きません。だって、撮影を見ていると何かと文句を言いたくなってしまいますから(笑)。

 4月3日スタートのドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)。毎週月曜日~金曜日、午後12時30分~12時50分という時間帯で放映中だ。倉本聰氏(82)にとっては9年ぶりの連続ドラマとなる。

 物語の舞台は老人ホーム「やすらぎの郷 La Strada」。映画・テレビ業界を支えた俳優・脚本家・音楽家などの“業界人”しか入居出来ない施設である。厳正な入居資格を満たした老人たちがここに集い、穏やかな人生の終末期を過ごしている。

 入居者を演じるのは往年の名優たち。主人公の脚本家・菊村栄を演じる石坂浩二(75)と、大女優・白川冴子に扮する浅丘ルリ子(76)は、2000年の離婚後初共演。脇を固めるのもスターばかりだ。有馬稲子(85)、加賀まりこ(73)、五月みどり(77)、野際陽子(81)、藤竜也(75)、ミッキー・カーチス(78)、八千草薫(86)、山本圭(76)……。

 ドラマのテーマは「高齢化社会」、そして「生と死」。倉本氏が作品を通して伝えたいこととは――。

(出典:文藝春秋2017年5月号・全3回)

大人のための“シルバータイム”を

 書こうと思ったキッカケは、僕の同年輩の友人たちが漏らした「見るテレビ番組がない」という言葉でした。

 若い頃にどれだけ無理をした人でも、老いると朝5時頃に目が覚めて夜は早く眠るようになります。これはヒトという生き物の本来の生態です。日の出に合わせて起床し、日の入に合わせて就寝する。現代人はどんどん夜に進出していますが、老人になると体内リズムは自然と原点回帰していくわけです。

 ところが、朝型生活をする老人たちが見るテレビ番組が今は殆どない。夜は若者向けのおふざけ番組ばかりで見るに堪えない。なぜ、大人の見るドラマがないのか。近年、僕は周りの人々からそういうことを言われていたのです。

 確かにその通り。夜がゴールデンなら、朝昼に老人も楽しめる大人のための“シルバータイム”を作ったら良いじゃないか。僕は同輩たちにそんな腹案を話したところ、多くの人が「是非やろうよ」と賛同してくれました。

 正直に言って僕の同年代は身体が駄目になりかけている連中が多い。惚けが入りかけている奴も少なくない。だから、今まだ辛うじて元気なうちに、テレビ草創期に意欲を湧かした連中を集めて真剣にテレビドラマを作ろうと考えました。

 八千草(薫)さんやルリちゃん(浅丘ルリ子)、(加賀)まりこには当初から相談していましたし、中には「ギャラは無料(ただ)でも良いから出させてくれ」と言ってくれる奴もいた。嬉しかった。そこで、テレビ朝日に話を持ちかけたら、早河洋会長が即断してくれたのです。