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倉本 聰
2017/06/04

倉本聰 老人ホームは恋の宝庫である #2

9年ぶりの連ドラ「やすらぎの郷」で描いた、楽しく、幸せな「終活」

死ぬまでにキチンとしたドラマを残したい――。その強い思いから、脚本家・倉本聰氏が9年ぶりに書いた連続ドラマ『やすらぎの郷』(#1参照)。映画・テレビ業界を支えた“業界人”しか入居できない老人ホームを舞台とした本ドラマには、モチーフになった映画があった。
(出典:文藝春秋2017年5月号・全3回)

老人ホームに入ることは、恥ずかしいことではなくなった

 テーマを「老人ホーム」にすることは予(あらかじ)め決めていました。僕の友人も随分いっぱい入っていますし、今回出演する役者の中にも入居中の方がいます。

 実は、このドラマのモチーフにした映画があるんです。フランスのジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『旅路の果て』(1939年)。南フランスの養老院に集まった、かつて俳優として脚光を浴びた者たちが、自らの老いを認めず、それ故に悲劇が生まれる、というストーリーの映画です。ここから着想を得ました。

 僕たち世代は老人ホームには暗いイメージを抱きがちです。ところが、最近になって漸く「そうでもないよ」という噂が次第に広まってきた。僕の住んでいる富良野でもここ数年ケアハウスなどの施設が一気に建ちました。有り体にいえば、「老人ホームに入ること」が恥ずかしいことではなくなったのでしょう。老後1人になったら自分から率先して入りますと躊躇(ためら)いなく言える時代が来たわけです。

破綻した航空会社のCAが……

 今回、脚本を書くにあたって、僕は色々な老人ホームを訪ね歩きました。何処の施設も驚くほど近代化していました。「介護付きマンション」と呼ぶほうが正しいくらいの質の高さだと思います。

 東京にある某鉄道会社系列の老人ホームに行ったときのことです。そこには「コンシェルジュ」と称する女性たちが働いていました。彼女たちは揃いも揃って美人で、礼儀正しく、プロの接客術を身につけています。

 僕はあまりにも驚いて、経営者に「一体どうやって彼女たちを採ったのですか」と訊くと、彼女たちは元キャビンアテンダント(CA)だという。かつて日本航空が破綻した時に退職したCAをコンシェルジュとして雇っていたのです。ドラマも同じ設定にしましたが、まさに事実は小説より奇なりですよ。

 さらに、老人ホームは「恋の宝庫」であることも判明。

 人は、80歳を過ぎると「第2の恋」に落ちると言いますよね。長年連れ添った夫婦でも、新婚時代の愛情に近い感情が再びピュアになって顕れてくる。伴侶を亡くした人も、新たに出会った人に初恋のような純粋な想いを抱く。老人ホームの生活ではそのような恋に落ちる人は少なくないのだとか。

 先述したコンシェルジュのいる老人ホームには僕の先輩が入居しています。90歳近い男ですが、今も毎晩のように銀座に飲みに行っている。耳が遠くなったり、足腰が弱くなったりして、「最近、女がなかなかできねえんだ」とボヤいていますが、彼の色気は齢を重ねても、決して衰えていきません。

 性別を問わず、色気があり、恋愛感情を持てる人は比較的老けないのだと感じます。彼らは何歳になっても性欲があるといいます。しかし、それ故の苦しみもあるとか。性欲があるのに生理的にできないことへの苦しみです。極めて人間的な悩みですよね。人はそういう気持ちを失った時に初めて「死」を意識するのではないかと僕は考えています。

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