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倉本 聰
2017/06/05

倉本聰 老人だけが暮らすユートピアを作ろう #3

9年ぶりの連ドラ「やすらぎの郷」で描いた、楽しく、幸せな「終活」

倉本聰氏が脚本を手掛け、往年の名優たちが多数出演することでも話題のドラマ『やすらぎの郷』。「大人のためのドラマ」を目指し(#1参照)、自ら老人ホームを丹念に取材して作り上げた快作だ(#2参照)。昨年「終活」も行った倉本氏が、いま伝えたい高齢化社会への提言とは――。
(出典:文藝春秋2017年5月号・全3回)

岸信介の「長生きの秘訣3則」

 岸信介が遺した「老後の長生きの秘訣3則」というのがある。これが実に見事で、僕は実践しています。

「転ぶな、風邪を引くな、義理を欠け」

 僕は中でも3番目が最も重要だと思っている。だからもう冠婚葬祭には一切出ないようにしています。よほど親しい人には花を贈るか、弔電を書くくらい。一々金を包んだり、葬式に行っていたら身が持ちませんから。

 近頃、「終活」という言葉が流行っています。実は僕も去年1年間かけて自らの終活を行いました。

 遺言も書きましたし、富良野の地に墓も買いました。我が家の墓は東京の多磨霊園にあるのですが、僕は長年棲んだ富良野を終(つい)の棲家にしたい。だから、妻と2人で入る墓を元気なうちに買ったわけです。

 財産整理は大変でした。現金や目に見える資産は良いほう。物書きのような稼業をやっていると知的財産権が幾らになるかが死んでみないと分からない。テレビの著作権もある。向田邦子さんみたいに死んでから本や作品が沢山売れる場合もあるかもしれない。でも、橋田壽賀子さんのように、生前から財団を作って後輩たちに賞をあげるほど僕は偉い人間ではない。おまけに僕ら夫婦には子供がいない。そんな事情で、誰に何を残すかを細かく決めるのが非常に大変な作業でした。

 そこで公証人を立てて整理をしたのですが、その経験がとても面白かった。

 昔から付き合いのある某財閥系銀行の本店に行くと、そこには4、5人の担当者と公証人が厳かな顔をして待っていました。その内の1人が「一寸大変失礼なご質問をいたしますが、もしも先生より奥様の方が先に亡くなられた場合……」と聞いてきたので、僕が「ああ、それも考えておいてください」なんて言うと、「すみません! では奥様の方の戸籍謄本をご用意いただき……」などとずっと恐縮しているわけです。周囲は皆引き続き厳しい顔。僕に気を遣っているわけです。失礼なことを言っていないか、と。目の前にいる僕が死んだ後の話をしきりにしているのですから。その厳かな雰囲気が何とも可笑しくて、話を聞いているこっちがプッと吹き出しそうになりました。

『やすらぎの郷』(テレビ朝日系) ©テレビ朝日

 後に公証人が手書きで僕の遺言を書いて持ってきて、それを僕の目の前で読み上げてくれました。彼らは全国で500人程度しかいないとか。この齢でも知らないことって案外あるのです。

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