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インスタでよく見る“アクセサリーとしての本”の写真を送ってきた元彼――犬山紙子「モテ読書」

2017/06/07
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 妙齢独身女性あるあるに「元彼から年1で連絡がくる」があります。別に「よりを戻そう」というものではなく、「元気?」みたいなたあいもないメールだったりするのですが、その真意は大概「下心」と「まだ俺のこと、好きだよね?」っていう確認なので、嬉しくもなんともないんですよね……。

©犬山紙子

 友人Jちゃん(30)もそんな女性。1年前にJちゃんと別れたイラストレーターのダメ男からある日「元気?」のメールが来たそうです。もうなんとも思っていなかったので普通に「元気だよ」と返事。すると「元気なら良かったー、俺Jに借りたままの帽子とかあるからサクッとランチでも行かない?」と。

 一瞬「送れよ!」と思ったそうだけどJちゃんも元彼がこの1年でどう変わったのか(または全く変わっていないのか)好奇心が湧いてしまい、会うことに。

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 すると、すぐに「自分がこの1年でした活躍」の話が始まった。「◯◯の雑誌に描いた」から「◯◯さんが褒めてくれた」まで、お前はお母さんに褒めてもらいたい子供か! という感じだけど、彼は「お前が別れた男はいい男なんだぞ、勿体無いんだぞ」と一生懸命アピールしたいのでしょう。

 あまりにもその話がつまらないので「やっぱり別れて正解だな」と思いつつ、貸した帽子は「あ、忘れた」と結局返して貰えず、グダグダでランチは終わり。その後「またランチでも行こうよ」と誘われるけれど、忙しいと言って断り続けていたら。

「読了。これからNYへ」とだけ文章が添えられて、いい感じに加工された、空港でとったと思われる柳宗悦の本の表紙の写真が送られて来たそうで。「それがさ、おかしくて。本を読んで、それが良くてオススメするとかだとわかるんだけど、まったくどこが良かったとか書いてないのよ。写真を加工する暇あるんだったら感想を書けってね。本をアクセサリー感覚で使ってるんだよ」

 確かにそれだけのメールだと「で?」ってなるな……。それどころか「最初の1Pしか読んでないんじゃないの?」と思ってしまう。

「なーんも変わってなかったんだよね。それと絶対彼氏はできた?って聞かないのよ。私に彼氏がいたら負けたって思っちゃうから聞けないんだろうね、ああほんと残念」と笑うJちゃん。

 でも、かっこいい本の表紙写真が自分のハクになると思ってしまう、そしてそれを見抜かれてしまう残念さ、私は笑えないんですよ。自分の思春期も似たようなものでしたから。まあ、思春期で卒業できて良かったのか。

インスタでよく見る“アクセサリーとしての本”の写真を送ってきた元彼――犬山紙子「モテ読書」

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