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楠木 建
2017/06/06

うまい、安い、はやい。最強の一人ごはん――楠木建の偏愛「それだけ定食」

楠木建の「好き」と「嫌い」――好き:それだけ定食 嫌い:美味しいものを少しずつ

豪勢なライスカレー

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 お待たせいたしました(誰も待っていなかったかな?)、前回に引き続き「それだけ定食」の話をする。

 とはいっても、誰も覚えていないだろうから、改めて説明しておこう。それだけ定食というのは、家で一人で食事をするという状況での僕の極私的な嗜好であり、(1)スキなものだけを、(2)スキなだけ大量に、(3)がーっと一気に食べてお腹一杯!という食のスタイルを意味している。それだけ定食を構成する要件は「単品性」「量的満腹感」「スピード」の3つ。これを私的専門用語で「それだけ定食三原則」という。

「量より質」というが、僕の場合は「質こそ量」にして「量こそ質」である。質が高ければそれは必然的に量を求める。

 前回はそれだけ定食界のエースで4番、ディフェンディング・チャンピオンのスパゲティの例で、それだけ定食の愉悦を紹介した。スパゲティが大将ならば、中将は言うまでもなくカレーライスである。それだけ定食の文脈でいえば、「ライスカレー」という方が気分に合う。

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 市販のルーを使うのすら面倒なので、レトルトカレーを愛用している。このご時勢、レトルトといってもわりと、というか、かなり美味しいのがある。わが家では電気炊飯器を一切使わず、毎回釜でご飯を炊くのだが、それだけ定食のライスカレーのライスであれば、電子レンジで温めるパックの白米で十分。というか、きっちり炊くよりもパックご飯の方がむしろ美味しい(気がする)。

 当然のことながら、1人前では足りない。ご飯は2パック、レトルトカレーも2人前。レトルトカレーの美点は、こういうときに2種類のカレーを味わえるということにある。先日はキーマとバターチキンの2種盛りにした。

 ただし、レトルトカレーは湯煎しない。電子レンジも使わない。中身をお鍋に開けて温める。なぜかというと、カレーに僕の大スキな具材を追加するからである。誰も覚えていないだろうから繰り返しておくが、自宅で食べるそれだけ定食の本領は、スキな材料をスキなだけ大量に入れ放題というところにある。

 前回も話したように、僕の大スキな食材にマッシュルームがある(誰も覚えていないだろうが)。お鍋にあけたカレーに、フレッシュなマッシュルームの薄切りを驚くほど大量に(←ここがポイント)投入して弱火で軽く煮る。

 もうひとつ忘れてはならないのがグリーンピース。これも僕が偏愛する食材である。冷凍のグリーンピースを大量に(←ここがポイント)投下する。グリーンピースそのものはそれほど美味しいものではない。にもかかわらず、なぜか大スキなのである。ライスカレーだけではない。かつ丼の上に2つ3つ4つと青々としたグリーンピースが載っていると、それだけで言いようのない多幸感に包まれる(オレ、ちょっとヘンかな?)。

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 味がそれほどでもないのになぜそこまでスキなのか。色合いなのか食感なのか。その理由が自分でも判然としないのだが、強いて言えば子供のころの記憶が関係している。小学生のころに行った修学旅行、僕の地域では日光に行くということになっていた。東照宮の近くの食堂で食べたカツカレーの上にグリーンピースが載っていた。僕の家ではカレーにグリーンピースを入れなかったので、鮮烈な印象があった。それ以来、グリーンピースが大スキになった。

 話を戻す。こうして完成したマッシュルーム&グリーンピース大量投入のキーマ&バターチキンの2種盛りライスカレー。これだけ贅を尽くしても、「CoCo壱番屋」のカレーよりもまだコストが安い。調理(?)時間5分、食事時間5分。お腹一杯でハゲ頭には大量の汗。食後のタバコがひときわ旨い。これもまた、それだけ定食の理想形である。

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