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成田 陽子
2017/07/09

映画監督ウディ・アレン インタビュー――おかしな妄想とわが映画人生

35歳下の妻に振り回されて

source : 文藝春秋 2016年8月号

genre : エンタメ, 映画

 最新作『カフェ・ソサエティ』が公開中の映画監督、ウディ・アレン。歳を重ねても映画を作り続け、「憎らしいほどにかっこよく枯れて来た」男は「仕事が生き甲斐」と繰り返す。80歳当時のアレンが映画に対する想いを語ったインタビュー。

誕生会は不純で不気味――死の扉と隣り合わせに生きてきた

ウディ・アレン 八十歳になり、自分に何が起こるかほとんど分かるようになって来た。耄碌することを憂えるのではなく、どこかで期待している節もあるんだ。そして、出来れば眠ったままで死にたいと思ってる。

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 一九三五年十二月一日生まれ。八十歳になるウディ・アレンは、今年四月初めのニューヨーク、マンハッタンでの撮影現場でしれっと言ってのけた。

 アマゾンのプライム会員向けに米・英・独で配信される初めてのテレビシリーズは監督、主演も兼ねているため、渋い緑色の上着に茶色のコーデュロイのズボンに帽子という六〇年代後半風の衣装をまとっている。少しばかりよれよれの衣装が、却っておしゃれな老人の雰囲気を醸し出している。

 今回はこの時のインタヴューと一昨年の『イレイショナル・マン』(脚本・監督 邦題は『教授のおかしな妄想殺人』。日本公開は昨年六月十一日)の取材と合わせて、憎らしいほどにかっこよく枯れて来たアレンの“老いの哲学”を紹介しよう。

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ウディ・アレン 私は五歳のときから、今日にも死んでしまうという強迫観念を抱いてきた(笑)。以来、八十歳までその気持ちは変わっていない。毎秒毎秒、死の扉と隣り合わせに生きて来たという気分だね。

 八十歳だから、九十歳だからといって誕生会をするのは嫌なんだ。飲み物で乾杯したり、長生きの幸運を言い交わしたりする雰囲気には不純で不気味なものを感じる。ニューイヤーズ・イヴのパーティーで大騒ぎするなどは以ての外。夜が更けるなりベッドに入って眠ってしまうよ。

 死ぬ前に何かを成し遂げたいという願望もないんだ。このままのペースで働き続けるつもり。母は百歳、父は九十六歳まで生きた。長生きの遺伝子を受け継いでいると願っている。

ウディ・アレン 2016年カンヌ国際映画祭にて ©getty

仕事が生き甲斐――いつも頭の中に百万個以上のアイデア

 クリント(・イーストウッド、現在八十七歳)とよく比較されるね。私はクリントの大変な賛美者だよ。ただし一度も会ったことはないんだ。彼の映画は大好きだけど、クリントに親近感を持ったことは全くない。余りに私とは違うキャラクターの持ち主で、西海岸の街の市長になったり、スーパーヒーローになったり、私と正反対のタイプだからね。でも彼の映画はいつも楽しみにしている。

 私は一年に一本のペースで映画を作っているけど、これからもこの調子で仕事をするつもりだ。健康に自信があるのはさっきも言った遺伝の他に、毎日エクササイズをし、体に良いものを程よく食べているから。エクササイズはトレッドミル(ランニングマシーン)なんだ。起きてすぐトレッドミルを三十分、それから朝食を食べて、ペンと紙を持ってベッドに入り二時間ほど脚本を書きなぐる。それからシャワーを浴びて二時間ほど書き続ける。昼食後もスケジュールが許せば、ずっと書き続けてる。それほど書くのが好きなんだ。時どき休んでクラリネットの練習をしたり、外に出て新鮮な空気を吸ったりする。そうするとまたすぐに書きたくなるんだ。一日中、一晩中でも書き続けていたい。もし映画の監督をしなければ、一年に四本の脚本を楽に仕上げられるだろうね。

 私は仕事が生き甲斐なんだ。仕事で会う人々との刺激のある会話、創作意欲、私の企画に投資をしてくれる人がいるという嬉しさと責任と適度なプレッシャー、そういうものが私の栄養なんだ。いつも頭の中に百万個以上のアイデアが湧いている。それを使って書き続けているのが、至福の時間だね。

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 クラリネットはプロ級の腕前で知られている。ちなみにアレンはコンピューターなどを使わず、旧式のタイプライターで指の力を込めて清書するのである。

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ウディ・アレン 私はいままでスランプに陥ったことがない。そういう意味では非常にラッキーだね。憂鬱になった時や気分が悪い時でも、書き始めると見る見る晴れやかな気分になる。書くことは私を健康にしてくれるよ。若い時からそうだった。この仕事に出会って、本当に幸運だと思っている。

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