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川上 量生
2017/06/14

“人類最後の職業”はプログラマーだ――プログラミングを学ぶ意味とは

デジタル時代の「コミュ力」を養おう

source : 文春ムック 文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

genre : ビジネス, 教育, 社会, 働き方, テクノロジー

 AI時代の到来が叫ばれるようになり、“プログラミング”という言葉を耳にする機会が増えてきた。しかし、「プログラミングが重要だ」と言われても、漠然としていて何だかよく分からない、という人が多いのではないだろうか。プログラミングを学ぶことにどのような意味があるのか、カドカワ株式会社代表取締役社長の川上量生氏が解説する。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

プログラマーが“人類最後の職業”に

 私はコンピューターのプログラミングを義務教育に取り入れるべきだと考えています。それは、プログラマーが〝人類最後の職業〟になりうるからです。プログラミングをマスターしていれば、世界中どこに行っても食いっぱぐれることはないという「実益」が第一の理由です。

 進駐軍の時代なら、英語ができる人間は、より有利にビジネスを進めることができました。今の時代であれば、プログラミング言語ができて有利になる世界のほうが広いでしょう。

 人工知能はどんどん進化しています。恐らく世の中にある仕事のほとんどが今後、人工知能でカバーできるようになるでしょう。それはかつて手工業で作っていた品々を機械が作るようになったのと同じようなものです。従来は機械化が難しいと思われていた熟練した職人のノウハウも人工知能が得意なものとして置き換わっていくでしょう。官僚が行っている仕事や医者による病気の診断なども人工知能がとってかわる可能性が高いです。

 ただ、税理士や会計士という職業は、生き残るかもしれません。税務申告や会計処理はルールが多く複雑なので、仕事自体は人工知能が得意とするところです。しかし、そのような仕事を職業とする場合には資格の取得が義務づけられています。人工知能がいくら発達していても、こうした法律で保護されているような職業は、なくならないのでしょう。

 究極的には人間の仕事は儀礼的なものしか残らなくなる可能性があります。ただし、過渡期においては、人間の仕事を肩代わりしてくれる人工知能に指示を出す人間が必要になります。それがプログラマーです。ですから、プログラミングは人間がおこなう最後まで残る仕事のひとつになるでしょう。もっとも、プログラミングを全ての人間が学ぶ必要があるかについて異論があるのは当然です。いくら人間にとって最後の仕事だとしても、全ての人類がプログラマーになるようなことは起こらないだろうからです。

デジタル時代の「コミュ力」を向上させる――プログラミングを学ぶ意味

 プログラミングを学ぶ意味とは、必ずしもプログラマーになるためではなく、コンピューターとのコミュニケーション能力を向上させることにあると思います。プログラミングを覚えることで、コンピューターがどのように動作するかが理解でき、なにが得意で、なにが苦手なのか、いわばコンピューターの“気持ち”を理解して、コンピューターに的確な指示を送れるようになります。

 私たちは、ふだん他者とのコミュニケーションにおいて、常に相手の行動や思考のパターンをシミュレーションしています。それと同じことをコンピューター相手に行えるのが、これからの時代の人間に必須の能力となるでしょう。プログラミングは、デジタル時代の「コミュ力」を向上させるのです。

 プログラミングというのは万人に適性があるわけではありません。ある一定の割合で、いくら教えてもプログラミングが上手くならない、というひとは存在します。それでもプログラミングを必修科目にすべきというのは、プログラミングを学ぶことがコンピューターの動作原理を理解するのにもっとも近道だからです。私たちは、小学生のころ、乾電池と豆電球を使って、電気がどのように流れて、明かりが灯るかを学びました。しかし現在、スマートフォンやタブレットPCがどんな原理で動いているか、理解している人がどのくらいいるでしょうか。最近の電化製品は取扱説明書を見なくても、感覚的に操作できるようになっています。その製品のなかで、どういう作業が行われているのか、まったく分からなくても望んだように動かすことができます。

 しかしそれは機械に人間とコミュニケーションをしてもらっているだけで、人間が機械とコミュニケーションしているとはいえません。ですので、コンピューターの動作速度が突然遅くなったり、動かなくなったりした場合、どう対処すればいいか分からないということが起きるわけです。コンピューターの動作原理を知らないと、メモリがいっぱいになっているだけというような基本的なトラブルでも、素人には何が起きているのか想像ができません。

プログラミングを覚えることは、コンピューターの“気持ち”を理解すること ©iStock.com
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