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松浦 新
2017/06/17

あなたにも「老人地獄」が待っている

自立できない老人、生活保護受給者は増え続ける

 高齢化社会が急速に進み、介護が社会問題化している。そんな中、負担の大きい有料老人ホームに代わって、“救いの施設”と化しているのが「無届け有料老人ホーム」だ。しかしそこには劣悪な環境下で暮らす、貧困に喘ぐ老人達の実態があった。朝日新聞経済部記者の松浦新氏が、決して他人事ではない「老人地獄」を語る。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

介護に悩む家族の“救いの施設”「お泊まりデイ」の実態

 埼玉県東部の住宅街に築40年近い2階建ての一軒家がある。2月の寒い夜、その1階の部屋に入れてもらった。

 そこでは、60歳代から100歳近い男女10人が雑魚寝をしていた。3部屋のふすまを取り払ってつなげた20畳の部屋を取り巻くように眠る。通路になる中央部分の畳には、汚物を吐いた痕が大きな染みになっていた。畳はあちこちがすりきれて、ガムテープがはってある。

 ここは介護が必要な老人を昼間にあずかるデイサービス事業所なのだが、夜になっても自宅に帰さない「お泊まりデイ」と呼ばれる類の施設だった。私たちは多くのお泊まりデイを取材したが、何年も家に帰っていない老人がたくさんいた。

 デイサービスを提供する事業者には、利用者が昼間に利用すれば、要介護度によって介護保険から1人1日1万円前後が入る。お泊まりを夕食と朝食つきで1泊2000円程度で提供しても、介護保険サービスを確保できれば安定した事業ができる可能性がある。お泊まりは昼間のサービスの「おまけ」なのだ。

 一方、介護に悩む家族には、おまけのほうが魅力になっている。都市部の有料老人ホームなら月20万円はかかる。お泊まりデイなら月10万円程度の自己負担で暮らせるため、「格安」の費用で老人をあずけられる救いの施設なのだ。

 こうした需要を見込んで、お泊まりサービスのノウハウを提供するチェーンもある。そのひとつ「だんらんの家」の研修資料には、1カ月の売上高が約400万円になる事例が紹介されている。家族数人で住んでいた民家を借りてほとんど改装せずにこれだけの売上高が確保できると聞けば、やりたくなる人もいるだろう。

介護デイサービスの「おまけ」である「お泊まりデイ」は介護に悩む家族の“救いの施設” ©iStock.com

格安だが劣悪な無届けホームが急増

 一戸建てを転用しやすいデイサービスは定員10人までの「小規模型」で、2016年3月時点で全国に約2万4000ある。デイサービス全体の数は約4万3000なので半数を超える。厚労省の統計がある06年度末には約8000事業所で全体の4割程度だったが、他業種から参入しやすいこともあって急激に伸びた。厚労省の13年度の調査によると、小規模型の24%がお泊まりサービスを提供していた。

 こうして、空き家になっていたかもしれない一戸建てが、即席の「介護施設」に変わる。同様に、民家が使われるのが「無届け有料老人ホーム」だ。

 私が取材した愛知県の施設は築40年のどこにでもある一戸建てだが、正面に「入居者募集」と書かれた看板があった。パンフレットには1階に3部屋と2階に2部屋があり、それぞれベッドが2つずつ描かれている。実際に見学した人によると、部屋は6畳程度で、入居者の荷物が段ボール箱やビニール袋に入れられて床に置かれ、足の踏み場も無かった。入居者には末期ガンの人もおり、ベッドで点滴を受けていたという。

 こんな施設でも有料老人ホームとして届け出ていないため、建前は普通のアパートと変わらない。地元市役所はことあるごとに立ち入り調査を求めているが、施設側はなかなか応じないという。

 厚労省も、こうした無届けホームの調査はしている。16年4月に公表した無届けホームは14年10月時点より約700カ所も増えて1650施設になった。無届けホームが問題になり、例年の調査に追加調査をした結果だが、同年9月、総務省行政評価局はさらに届け出を促進するよう厚労省に勧告した。

 実は、行政は無届けホームを把握している。生活保護などを扱う福祉部局が、これを必要としている面があるためだ。

 正式な有料老人ホームには、部屋や廊下の広さ、消防設備などで様々な規制があるため、地価が高い都市部を中心に、料金設定を高くしないと経営が成り立たない面がある。生活保護には支給の限度額があるため、都市部では10万円程度で入ることができる無届けホームが「必要悪」になっている。