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赤坂太郎
2017/06/15

改憲安倍を悩ます「前次官の乱」

小池は加計学園問題を利用し、都議選に向けて新たな矢を放った

 首相・安倍晋三は慎重に言葉を選んでいた。

「総裁として、9条に自衛隊の存在を明記するということを3日に提言し、自民党に検討するよう指示しました」

 5月22日昼、首相官邸。昼食を共にしながら公明党代表の山口那津男に改憲案を説明する安倍は、あえて自らの肩書きを「総裁として」と表現し、党に検討を指示したと明らかにする一方、その後のスケジュールには一切触れなかった。

 9条そのものに手を付ける改正には本来否定的で、意見集約ができていない公明党を刺激しないよう配慮したのだ。山口も呼応するように「承りました」と静観姿勢を示す一方、「安全保障法制を成立させる過程で、憲法についても十分な議論をしました。その時の考え方がベースになります」と、自民党の議論が従来の幅を逸脱しないよう釘を刺すことを忘れなかった。安倍も「国会でもそう答弁しています」と返す。与党として検討作業を始めることにお墨付きが与えられたと安倍は判断した。この時、すでに安倍は年内の取りまとめを表明、自民党の憲法改正推進本部の態勢を拡充させる方針も固めていた。用意周到とも言える段取りを踏む安倍の視線の先には、来年9月の自民党総裁選がある。

 安倍は5月半ば、親しい政界関係者に「憲法審査会で民進党を含む合意形成を待っていたらいつまでもできないことがこの3年でよく分かった。発議は3党でやるしかない」と明かしている。その目論見通りに進めば、来年年明けの通常国会で衆参両院の憲法審査会に自衛隊の9条への明記と教育無償化を軸とした自民党改憲案を提示、公明党だけでなく日本維新の会の協力も得て議論を進めることになる。

 そうなれば、9月までには憲法審査会での議論はかなり煮詰まっていることになる。安倍の対抗馬として立候補するには当然、独自性のある改憲案が必要となるが、それはおのずと「今更憲法審査会の議論を無にするのか」との批判を受ける。安倍と同様の案であれば、改憲が最大の争点となる総裁選になぜわざわざ立候補したのかと疑問を呈されることになる。

 安倍にとって「改憲」は究極の目標であると同時に、総裁選で3選を勝ち得るための絶好の武器でもあるのだ。

安倍晋三 ©三宅史郎/文藝春秋

 第2次政権発足直後の安倍は、改憲手続きを定めた96条の改正を提起して強い批判を受けた。以来、具体的な改憲項目を自ら提唱することを避けてきた。それゆえ、長年の持論であった集団的自衛権の行使容認の閣議決定と、それを受けた安全保障関連法の成立にがむしゃらに突き進んだ。

 だが、昨夏の参院選で大勝、衆参両院で改憲勢力が3分の2を占めるに至り、今年3月には総裁任期も「3期9年」に延長。改憲発議に必要な勢力と時間を手に入れたことで、再び、祖父の元首相・岸信介以来の悲願である9条改正への野望が頭をもたげてきた。改憲に悲観的だった官房長官・菅義偉も参院選後、一転して「総理に改憲をやらせたい」と前向きになった。

 しかし、9条の全面改正となると公明党の賛成を得るのは間違いなく不可能だ。創価学会名誉会長の池田大作が憲法9条の重要性に度々言及してきたことから、特に学会婦人部には、「先生は、9条は宝だとお話しになっている。9条だけは一切、手を触れるべきではない」との意見が根強い。

 そんな中、安倍の背中を押したのは、これまで封印されてきたある公明党幹部の言葉だった。