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女性ホルモン服用が許されず
性同一性障害の受刑者が提訴

source : 週刊文春 2016年7月28日号

genre : ニュース, 社会, 医療

身長179センチの菊池受刑者

 6月9日、ある“女”が獄中から国に1000万円の賠償を求める民事訴訟を東京地裁に起こした。原告は菊池あずは(29)。昨年2月、都内マンションで交際男性(当時48)を撲殺し、殺人罪で逮捕。同12月に懲役16年の判決を言い渡された受刑者だ。

「菊池は銀座の高級クラブでホステスとして働き、イメージDVDにも出演していたが、実はニューハーフ。小さい頃から性の不一致に悩み、海外で性別適合手術を受け、戸籍名を変えて心身ともに女性になった。犯行動機は痴情のもつれ。交際男性から別れを切り出されて激昂し、顔面めがけて金属バットをフルスイングしたのです」(社会部記者)

 そんな彼女が欠かさなかったのが、女性ホルモン剤の服用だ。だが、刑務所では女性ホルモンの投与が認められず、そのために菊池受刑者は体調を崩したという。

 7月11日の第1回口頭弁論で原告側は「身体へのダメージは大きく、刑事施設にも治療する義務がある」と主張。警察の留置場では服用が認められたが、起訴後に移った東京拘置所では「病気ではない」と認められず、年明けから収監された関東の刑務所でも服用は許されていない。

「彼女は事件を起こすまで10年以上、女性ホルモン剤を朝夕2回、3錠ずつ飲んでいた。それがもう1年以上服用できていない状態。刑事裁判の法廷でも、涎を垂らし、ぼーっとして目の焦点が合っていない。弁護士が接見しても会話にならないことが多かったそうです」(司法担当記者)

 女性ホルモン投与には医療的意味合いもあるという。

「刑事裁判前に精神鑑定した医師は彼女を性同一性障害と診断、『女性ホルモン投与が必要である』と鑑定書で指摘していました。彼女のように手術で睾丸をなくした男性は、男性ホルモンを生み出せず、女性ホルモン投与がないと心身のバランスが崩れ、更年期障害のような状態になるそうです」(別の司法担当記者)

 刑事収容施設法では、在監者に対し社会一般の水準に照らして適切な医療を講ずることを国に義務づけているが、

「肝炎などで『適切な医療を受けさせなかった』と国の責任が認められた例がありますが、性同一性障害が争点の裁判は初めてでしょう」(同前)

 裁判所は、ニューハーフの“人権”をどう判断するのか。

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