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【日本ハム】吉川光夫に抱いた複雑な感情と、鳥谷敬に送った拍手と

交流戦 指名対決 テーマ「日本ハム⇔巨人 トレードされた選手を思う」 文春野球コラム ペナントレース2017

巨人・吉川光夫への複雑な感情

 5月24日、ファイターズは試合がなかった。僕は翌日の西武戦ナイター(県営大宮)へ向けて何とか身体を空けるべく、終日、仕事部屋にこもっていた。原稿が一段落してスマホに目をやると、複数の野球仲間から「吉川危険球退場……」「鳥谷心配です」といったLINEメッセージが届いていた。すぐにネットのニュース速報を確認する。甲子園で行われている阪神vs巨人9回戦だ。5回裏、1死三塁の場面で巨人先発・吉川光夫の投じた直球が阪神、鳥谷敬の頭部を直撃したらしい。

 うわ、まずいなぁと思ったが、とりあえず原稿を仕上げることにした。23時からの『プロ野球ニュース』(フジテレビONE)を見る。それは想像していた何倍も衝撃的なシーンだった。顔に行っている。鳥谷はその場に倒れ、しばらく動かなかった。吉川は口を一文字に結び、顔色を失っている。全身をこわばらせて棒立ちだ。そのどうしていいのかわからない感じが事態の深刻さを物語っていた。球審とトレーナーが声をかけ、阪神・金本知憲監督が駆け寄る。しばらくして鳥谷は身体を起こした。流血のためタオルで顔を覆いベンチに下がる。

 その青くなっている吉川光夫だ。巨人のユニホームを着ている。昨オフ行われた「吉川光夫、石川慎吾⇔大田泰示、公文克彦」の大型トレードはもちろんわかっていたし、キャンプの頃は「吉川、意外と巨人ユニ似合う」なんて軽口を叩いていたくせに、その姿を見て取り返しのつかないことになったと感じた。

 そのときの感情は説明しづらいのだ。吉川何やってるんだ、そんなとこで何やってるんだと強く思った。自分でも驚いたが、吉川のトレードに気持ちが追いついてなかったのだ。うろたえながら考えたのは鳥谷なり阪神なりに僕も詫びたいんだけど、そんなユニホーム着てたら僕が詫びれないじゃないかよということだ。いや、意味不明なのは自分でもわかっている。ただこれは感情なのだ。吉川がぶつけたんなら僕にも責任があると思ってしまう。

不器用な男がマウンドで繰り返すルーティン

2006年高校生ドラフトの外れ1順指名で日本ハムに入団した吉川光夫 ©文藝春秋

 吉川は超新星だった。2006年高校生ドラフト、田中将大の外れ1巡指名だ。翌07年、ルーキーイヤーにいきなり4勝を挙げ、日本シリーズでも先発を果たす。左の本格派だ。ストレートでぐいぐい押せるピッチャーだ。ただひとつ課題があって、制球難なのだった。それも適度な荒れ球みたいなタイプではなく、何か突然スイッチが切れたようにストライクが入らなくなる。2年目以降はそれで苦労した。不器用なタイプなのだ。ダルビッシュ有のような修正力がない。

 それから2軍暮らしが続いた。たまに1軍に上がっても「ノーコン病」は悪化して見えた。見てる分にはあんなに球威があるんだから、と思う。ど真ん中に投げたって打者が打ち損じてくれるだろう。吉川は変化球もいいのだ。ブレーキのきいたスライダーは天下一品。またクイックが抜群に速い。パ・リーグ屈指じゃないだろうか。他の投手がうらやむような長所を沢山持ってるのに生かしきれないのだ。鎌ケ谷でも年配のファンから「おい吉川、ノーコン治んないなぁ〜」とヤジを浴びていた。

 それが2012年、栗山英樹新監督の先発ローテ抜擢で大飛躍を遂げる。その年、ファイターズはダルビッシュの海外流出で先発の駒が不足していた。吉川は前年、イースタン・リーグで投手4冠を達成する等、ポジティブな要素があった。具体的には力の抜き方を覚えた。あるいは力を抜くためのルーティンを覚えた。今も吉川は一球ごとに肩を上下させてほぐすようなルーティンを几帳面に繰り返すが、2012年はそこに膝の屈伸が加わっていた(翌13年、疲れてしまうのでやめた)。

 栗山監督は吉川に賭けた。「今年ダメならオレがお前のユニホームを脱がす」と宣言、四球をいくら出しても使い切る覚悟を示す。その結果が14勝5敗、防御率1.71、最優秀選手&最優秀防御率、ベストナインの栄冠だ。この年は巨人と日本シリーズを戦ったが、どうやら吉川のフォームのクセが見破られていたらしい。また初めて1年フル稼働したことから肩肘に負担がかかっていた。リーグMVPがシリーズでは未勝利に終わる。

 その後は主力投手のひとりではあるけれど、2012年の快刀乱麻のエースには戻れないまま、巨人とのトレードになった。吉川はあのままファイターズにいても上がり目はなかっただろう。心機一転、セ・リーグで勝負するのは悪くないと思った。ただ巨人へ行っても、あの力みを取るルーティンを繰り返すのかと思うと胸がいっぱいになる。誰が見たって不器用な姿だ。あれをやらなきゃストライクが入らなくなるんじゃないかという強迫観念と闘う姿だ。

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