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私が考える、ほんとうに「家族はつらいよ」な映画

家族を真正面から描いた2作品

2017/06/20

genre : エンタメ, 映画

note

 私事ですが、今月に入ってから引っ越しをしまして、準備不足でテレビどころではなく、今も世俗にうとい状況です。昨日やっとネットもつながったので、とりあえずニュースサイトを見てみたところ、芸能界は色々大変だったようですね。淫行で芸能活動自粛だとか、麻薬で捕まった人も複数いて、誰が何をやらかしたのか混乱するほど。

 俳優の橋爪功の息子で、同じく俳優の橋爪遼容疑者(30)も、覚せい剤取締法違反容疑(所持)で逮捕されました。橋爪功は特に会見は行わず、仕事もすぐ再開。息子が逮捕されたとはいえ、子どもも成人してから社会で十分、倫理に関する思慮や経験を積んでいるはずなので、いまさら親の謝罪会見も無用だと思います。それにしても、『家族はつらいよ』が現実になったなあという出来事でした。

三國連太郎の演技もすごいが、近作では是枝作品から1本

 映画やドラマでは昔から、権力者や富を持つ者が、子どものしでかした悪事のもみ消しを図るというのは、洋邦問わず定番ネタ。日本でも『人間の証明』(77年)や『野性の証明』(78年)がパッと浮かびます。『野性の証明』では、罪を犯した暴走族のドラ息子舘ひろしに、大企業を営む父親の三國連太郎が、クンロクを入れる際の三國さんの芝居が独創的すぎて、父子相姦かという異様さが印象に残ってます。

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 日本の現代の映画で、リアルな辛辣さがあったのは是枝裕和監督の『歩いても歩いても』(07年)でした。是枝監督はカンヌ映画祭で、柳楽優弥が主演男優賞に輝いた『誰も知らない』(04年)も、実話を題材にした深刻なネグレクトにまつわる映画でした。『歩いても歩いても』はその点では一見、普通の盆の里帰りを描いた映画です。横山良多(阿部寛)は妻のゆかり(夏川結衣)とお盆の帰省をします。頑固な町医者の父恭平(原田芳雄)と、子どもたちを招き入れる母とし子(樹木希林)。

 しかし、この横山家では良多の兄にあたる長男が事故死しているため、お盆はただの月並みな帰省の機会ではなく、ちゃんと供養の意味を持っています。そこで母が家族以外に毎年招くのは、長男が事故死する理由となった男性。長男は優秀な人物で、医師になるのは確実と思われていました。しかし性格も良いのがあだとなり、彼は海で溺れていた男性を助けたために、亡くなってしまったのでした。その命を助けられた男は、ニートのデブ。とし子は毎年彼に、長男の優秀さを語ってきかせます。

 人命は平等。それを露骨に建前だと見せつける、優秀な息子の代わりに生き残った取り柄のない男。家族もさすがに、とし子の振る舞いにいたたまれない気分になりますが、彼女は意図的に、復讐としてプレッシャーをかけています。そんな帰省も終わり、帰りのバスでゆかりは「これから里帰りは盆と正月じゃなく、年に一回でいいよねえ」と、夫の良多と頷き合います。親の思いに対し、息子夫婦の本音をイイ話にせず、リアルに語る作品です。