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上位0.1%の超富裕層がますます金持ちに。アメリカ“強欲資本主義”の現実

池上彰が『超一極集中社会アメリカの暴走』(小林由美・著)を読む

2017/06/24
『超一極集中社会アメリカの暴走』(小林由美 著)

 アメリカのトランプ大統領による予算教書が五月に提出されました。アメリカの大統領には予算編成権がありません。予算を編成するのは議会。そこで大統領は、「こういう予算を組んでほしい」という要望を予算教書として提出するのです。

 トランプ政権は所得税や法人税の大幅減税を打ち出しています。金持ちほど大幅に税金が戻ってきますが、庶民には恩恵がありません。

 その一方で、貧しい家庭に食料を支援したり、低所得者が医療を受けられるようにしたりする施策は予算が大幅にカットされます。去年の大統領選挙でトランプに投票した支持層が打撃を受ける予算案です。

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 金持ちは一段と金持ちに、低所得者はさらに生活が困窮していく。アメリカの現状を象徴するような予算案です。金持ちの一極集中が進むアメリカ。書名通りの事態が進行しています。

 アメリカの所得格差が大きいことは日本でも知れ渡っています。国民のわずか一%の人が富の大半を所有している。そういう認識を持っている人が多いと思いますが、もはやそんな状態ではないと著者の小林由美さんは指摘します。

 上位〇・〇一%の二〇一四年の平均年間所得は二千九百万ドル(約三十二億円)という驚くべき数字です。上位〇・一%で見ると平均所得は六百万ドル(約六億六千万円)ですが、上位一%で見ると、百二十六万ドル(約一億四千万円)に下がります。

 過去の歴史を見ると、一九八〇年代以降、上位〇・一%の所得は増え続けているのに、それより下位はほとんど増えていないという現実があります。

 こんな格差社会で我が子を「勝ち組」にするには、質の高い教育を受けさせる必要があります。そのためには幼稚園から私立に入れる。ところが私立の幼稚園の学費は日本円で年間三百万円。私立大学の四年間の学費は計三千三百万円。いったい誰が払えるというのか。

 もちろん奨学金制度はありますし、学費ローンを借りる手もありますが、大学卒業と同時に多額のローンの負債を抱えることになる若者も少なくありません。「大学を卒業して社会人として第一歩を踏み出す時には、多くの人が既に多額の借金を負っている。これがアメリカの現実です」

 こんなアメリカで繁栄を謳歌しているのが金融業です。資金を集めて投資するファンド。その周辺には、アナリストやトレーダー、ブローカー、投資顧問、コンサルタントなど数多くの人が群がります。「こうした介在者の増大が金融サービス従事者を増やし、その人件費と利益が金融サービス業の付加価値として国内総生産(GDP)に現れ、不動産金融も含めると、金融サービスはGDPの12%近くを占める主要産業になっています」

 強欲な資本主義の支え手である富裕層は、自らの利益のために政治家に接近します。

「民主党は都市の進歩派富裕層やハイテク産業から政治資金を得て、都市部に集中しているマイノリティを取り込み、共和党は重厚長大産業やエネルギー、金融界から政治資金を得て、中西部や南部に集中している貧しい白人を取り込んだ」

 アメリカという国が分断されるわけです。アメリカという国を分析する著者の筆法は鋭く、ときにアメリカに対して絶望的な気分になりますが、他方でアメリカの強さも知ることができるのです。

超一極集中社会アメリカの暴走

小林由美(著)

新潮社
2017年3月24日 発売

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上位0.1%の超富裕層がますます金持ちに。アメリカ“強欲資本主義”の現実

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