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楠木 建
2017/06/20

「お買い得」のメカニズム

楠木建の「好き」と「嫌い」――好き:グリーン車 嫌い:ビジネスクラス

ビジネスクラスは高すぎる

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 飛行機で移動するときはエコノミークラスに乗る。仕事先がビジネスクラスを用意してくれるときは躊躇なくそちらを利用するが、自腹のときは絶対にエコノミー。目的地がどんなに遠くでもエコノミーで行く。

 個人的な感覚として、ビジネスクラスはあまりにも値段が高い。サービスの違いに比べて価格の差がありすぎると思う。せいぜい十数時間の「快適」のためにそれだけのお金を支払う気にはとうていなれない。確かに座席はゆったりしていて眠りやすい。ただし、実質的な意味のある違いはそれぐらいしかない。

 食事が美味しいという人がいるが、それはエコノミーの食事と比較するからだ。ビジネスの食事が美味しいのではなくて、エコノミーの機内食が不味いのである。現在の日本で生活している限り、きっちりと不味いものを食べる機会は滅多にない。エコノミークラスの機内食は例外として希少な存在である。

 所詮は機内という制約の中で用意される食事、ビジネスクラスといっても「普通に美味しい」だけの話。飛行機の中ぐらい食事を抜いて、降りてからゆっくりと美味しいものを食べればいい。はるかに安い価格で、ずっと美味しいものが食べられる。フライトが長くてどうしてもお腹がすいてしまう場合は、おむすびやお弁当を買って乗るに限る。

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ファーストクラスの意味不明

 一度だけファーストクラスというのに乗ったことがある。ある航空会社の経営諮問委員をしているときのこと、年に1回タダの航空券が支給され、しかもクラスはファースト、という特典があった。

 はじめて乗ったファーストクラス、それはそれは快適なものであった。ただし、自腹でファーストに乗ることはこれまでもこれからも絶対にないと断言できる。

 ファーストとビジネスとのサービスの質の違いは、ビジネスとエコノミーのそれよりさらに小さい。しかも価格の差はビジネスとエコノミーのそれよりさらに大きい。こんな非合理な選択は真っ平ご免、カネを払ってでも勘弁してもらいたいと思う。

 しかも、わりと驚いたのはファーストクラスには実に下品な乗客が多いということ。やたらと客室乗務員に威張り散らしたり、大声で文句を言ったり、無理難題を押しつけたりしているおじさま&おばさまが散見された。たった1回だけのファーストクラス体験、たまたまこのときがそうだっただけかもしれないが、サービスは上等にしても、雰囲気はエコノミーのほうがずっと上品だった。

フライトよりもホテル

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 ファーストは論外にしても、僕がビジネスを高いと思う最大の理由は、ホテルの価格との比較にある。ビジネスとエコノミーの価格の差分を、旅行先の宿泊費に使えば、世界中のどこの都市でも相当に贅沢なホテルに泊まれる。

 例えばロンドンに1週間滞在するとする。ビジネスクラスで往復し、不便な立地で部屋も狭い廉価なホテルに泊まる。これがプランA。エコノミーの割引運賃で往復し、メイフェアの中心にあってサービスも最上等なクラリッジズに泊まる。これがプランB。きちんと計算したわけではないが、毎朝クラリッジズの食堂で贅沢な朝食を食べたとしても、プランAの方が高くつくと思う。

 ま、ビジネスクラスの人はクラリッジズのような高級ホテルに泊まるだろうから、現実にプランAを実行する人はまずいないのだが、それにしても、合わせて24時間程度のちょっとした快適に支払うコストが、1週間連日続く大きな快適のコストを上回るというのはいかにも間尺に合わない。ということで、航空券をケチっても、予算の許す範囲でなるべく上等なホテルに泊まるというのが僕の好みだ。