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【オリックス】それでも俺たちは佐藤達也を愛している

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/06/19
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「サトタツ」を愛していないBsファンなど居ない

 描いた夢とここにある今 2つの景色見比べても 形をかえてここにあるのは 確かな1つのもの

 ロードオブメジャーの代表曲「心絵」。心地良いBPM190の8ビートが刻まれるその直前、まさに絶妙のタイミングで平野MCがコールする。「バファローズ! 選手の交代をお知らせします!!」。その瞬間、京セラドームは割れんばかりの歓声に包まれるのである。

 佐藤達也、背番号は15。空を割く直球を武器に相手を三振に切って取るその剛腕。飄々とマウンドから見下ろす不敵な表情。脇の下まで全開に覗くアンダーシャツ。通称「サトタツ」。彼を愛していないBsファンなど居ないのでは無いだろうか。言い過ぎかもしれないが、彼はこのBs国において「国民的スーパースター」なのである。

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 場面は変わって6月のMAZDA Zoom-Zoom スタジアム。対広島3連戦。交流戦優勝の為には何としても勝ち越しておきたかったこのカード。しかもパのリーグ戦においてBs浮上のきっかけとしたかったセ・パ交流戦である。その頂上決戦とも言えるビジターカードは、まさかの3連敗という最悪の結果で幕を降ろす事となってしまった。

 その第2戦となった6月14日。年跨ぎで“神ってる”鈴木誠也(広島)を生み出したのは、残念ながら12回からマウンドに上がった「サトタツ」であった。翌15日も登板した「サトタツ」であったが、名誉挽回とは至らなかった。

 結果的に「サトタツ」が打たれ、交流戦優勝という1つの目標から大きく遠ざかる事となってしまったBs。しかし我々Bsファンは、それでも「サトタツ」の完全復活を心待ちにしている。「サトタツ完全終了説」などこれっぽっちも信じていないのだ。

 2014年の活躍がそう思わせているだけなのか? 否! 決してそうでは無い。彼のピッチングスタイルには我々ロックシンガーと相通じるものがある。だからこそシンガーとして断言しよう! 「サトタツ」はまだまだ全盛期の輝きを放っている。

Bs国においてのスーパースター、佐藤達也 ©時事通信社

「ファルセット」と「ミックスボイス」と「速球派」と「剛球派」

 平井堅は透き通るような高音が魅力のシンガーである。森山直太朗もそうだろう。彼らが高音域で歌う時に多用するのが「ファルセット」と呼ばれる発声法である。「ファルセット」と言うと難しく聞こえるが、言ってしまえば「裏声」である。声帯への負担が少なくクリアな高音が出せる為、音の立ち上がりも早く、まさに透き通ったような高音が魅力である。

 それに対して稲葉浩志や氷室京介の高音域は「ミックスボイス」と呼ばれる発声法である。地声(チェストボイス)がそのまま高音になるようなイメージで、かなり高音域になると声帯を筋力で締め付け、絞り出すように発声する。「クリアで透き通る」とは言い難いが、力強く発声する為、メッセージを乗せやすい。また、激しい音楽を演奏する上では、この唱法でないとバックの演奏にかき消されてしまうだろう。

 投手のピッチングも同じでは無いかと思うのだ。いわゆる「速球派」と「剛球派」である。大谷翔平(日本ハム)は「速球派」の代表格であるが、あまり剛腕のイメージは無い。腕から離れたボールが一瞬でミットに吸い込まれて行く。言わばクリアな高音のような、美しいとさえ言えるストレートである。

 それに比べ佐藤達也のピッチングは「剛球派」である。160km/h超えのストレートを投じる事は出来ないが、そのストレートはあまりに力強い。全盛期の藤川球児(阪神)がそうであるように「手元で伸びる」剛球なのである。

 これは野球人の方が話題に明るい事だと思うが、初速(投手が投げた瞬間の速度)と終速(捕手が受ける瞬間の速度)の差に大きく起因する。投手の手を離れたボールが加速する事はありえないので、厳密には「手元で伸びる」事はない。しかし、初速と終速の差が小さければ打者から見れば「手元で伸びる」ボールに映るのである。

 初速と終速の差を小さくするには、ボールにいかにスピンを掛けるかが重要になる。佐藤達也の剛球は恐らくスピンが掛かりまくっているのだろう。ロックシンガーが声帯を絞りまくって高音を捻り出すように、ボールにスピンをかけまくって剛球を捻り出しているのだ。なんとロックな投球だろうか。

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