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山本 一郎
2017/06/22

ペットロスを人工知能が癒す日は来るか

 さくらが死んだ。

 猫なりに、頑張っておしゃれして誇り高く生きた、短い人生だった。野良だったのに、気品に満ち溢れていた。朝の仕事中、義母やお手伝いさんから「さくらの様子がおかしい」と連絡があって慌てて帰ってみたら手遅れであった。私はしばらく、倒れたままの姿を呆然と見下ろした。昨日まで、あんなに元気だったのに。

動物を飼っていると、いつかはこの日は来る。それが今日だっただけだ。

山本家に来たばかりのさくら 提供:山本一郎

 毎日毎晩ずっと丁寧に手入れをしていた茶白の毛は綺麗に揃って、苦しんだ様子もなく、ただいくらか吐いた血の塊だけがベランダの床にべったりと広がっていた。しっかりと見開かれた目を見て、少しすればいまにも彼女が立ち上がってノビをして……いつものように挨拶代わりに「にゃおん」と鳴いて、歩き始めるんじゃないかという想いもあった。しかし、死の帳(とばり)は薄く彼女の上に降りて、ひとつの命が終わったことを受け止めるしかなかった。呼んだ獣医も、気の毒だと言わんばかりに無言で肩をすくめるだけだった。

 動物を飼っていると、いつかはこの日は来る。それが今日だっただけだ。

 いままで、うちにいてくれてありがとう。

 身体の小さいさくらは、寒い日はいつもローズ柄のお気に入りの毛布にくるまって、ベランダにはそう出ることもなかった。それでいて、お腹がすくと、わたくしにご飯をくれて当然でしょう、と、こちらもローズ柄のお皿の前ですました顔で待機している。新しい爪とぎ場が気に入らないとソファでも家具でも爪を研ごうとするが、見られると、わたくしそんなことしてないわよ、とプイと部屋に帰ってしまうのがさくらだった。猫なのだが、しぐさも好みも人間の女性以上に女なのである。