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連載シネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2017/06/25

『オクジャ/okja』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

少女の通過儀礼とは

 古今東西、“通過儀礼”の物語は多い。

 少年が生まれ育った村を出て、鬼退治したり、ドラゴン退治したり、大冒険を経て大人になるお話――。

 でも、主人公が少女となると、ちょっとちがう。少女の通過儀礼の多くは“喪失することで完成する”からだ(大塚英志『人身御供論』より)。って、あー……言われてみれば、そう!! 大事な誰かを失ったり、冒険に失敗したりして、苦い思いを知ることで大人になっていく物語が多いような気がする。

 少女ミジャは韓国の山奥の村で静かに暮らしていた。いちばんの親友は、家族で十年も飼っている謎の巨大動物オクジャ。だがある日、多国籍企業によってオクジャがニューヨークに連れ去られてしまった! オクジャは、多国籍企業が開発中の夢の食肉用動物スーパーピッグだったのだ。

 ミジャは親友オクジャを取りかえすため、走りだす。

 そんなミジャの周りで、企業、消費者、動物解放戦線と名乗る活動家グループがぶつかりあって……。

 少女と動物の純粋さと対比して、周囲の大人たちは複雑だ。企業側には肉を食べて生きるという正義があって、活動家側には動物愛護という正義があって、両者の間には囚われの者たち(スーパーピッグ)がいる。

 ミジャは勇気と優しさを持ったヒロインだが、無力な子供でもある。子供に世界の問題を解決することができるか? 大人にだってできないことを。いや、ちいさな手で守れるのは、わずかなものだけ……。

 強張った顔で、暗い道を歩きながら、ミジャは一歩一歩、大人になっていったのだと思う。かつてのわたしたちみたいに。できないこと、限界を知ることも、成長のひとつだった。ハッピーエンドじゃない。バッドエンドでもない。

 ポン・ジュノ監督の作品には、「勝者はいない」という現実が常にある。

 
INFORMATION

『オクジャ/okja』
6月29日よりNetflixにて配信
https://www.netflix.com/jp/title/80091936

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