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【日本ハム】雨の匂いに包まれた神宮で幽体離脱しなかった有原航平

文春野球コラム ペナントレース2017

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ヤクルトさん、せめて半月前に逢いたかったよ

 そうしたら有原は1回裏のピンチを切り抜け、順調に飛ばした。初回に内野安打1つを許しただけだ。打線も石川を攻略し、4回表、2死からの連打で2点先制。6回表は敵失とタイムリーで更に2点追加。中田翔が走塁をがんばった。雨は次第に強くなる。球場全体が雨の匂いに包まれる。雨は鉄っぽいカナモノっぽい匂いだ。盛大に降ってきた。6回の攻撃終わりに審判が試合を止める。観客が騒ぎながら移動する。4-0で試合は成立している。これはコールドかな。

 そこから26分間の中断があった。ザーザー降りのなか、カッパ着て強化プラスチックのイスに座っていると、実にしみじみ自分は何やってるんだろうと思えて来る。自分はカッパのデビッド・カッパーフィールドだ。何を見ているのか。何を待っているのか。自分が自分から抜け出して幽体離脱だ。ぼーーっとして雨の匂いを嗅いでいる。

 7回表は有原のプロ初ヒット(流し打ちで1、2塁間を抜く)を見た。交流戦でしか見られない貴重な野球のエッセンス。そういえば昨日は負け投手のメンドーサが4回4失点で代打出されそうになって、打線が8番でチェンジになったんで「ゴメン、5回もやっぱ行ってくれ」になったのも交流戦だなぁと感じ入った。パの投手はそういう間合いで交代したり(やっぱりしなかったり)しないのだ。なんて思ってる間にファイターズは更に2点取ってダメを押した。

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 あとは有原の完投だけだった。試合中断にもペースを乱さず、雨のなか、かえって慎重にひとりひとり切っていった。スコアは6-0、有原は被安打1のみだ。最終回もスイスイと終わると思うじゃないか。雨は名演出家だ。エンドマークが出るまできっちり盛り上げる。坂口智隆、上田剛史の連打、レアードの3ゴロ後逸(!)で何と有原降板。後を託された増井も食い止めきれず、結局スコア6-3までもつれた。ハラハラしたなぁ。ヤクルトさん、僕たち出逢うのがちょっぴり遅すぎたみたいだ。せめて半月前に逢いたかったよ。

6月18日の試合で配布されたつば九郎3Dフィギュア(お父さんver.) ©えのきどいちろう

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/3033でHITボタンを押してください。

【日本ハム】雨の匂いに包まれた神宮で幽体離脱しなかった有原航平

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