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山田 隆道
2017/06/23

【阪神】あの藤川球児が敗戦処理に近い仕事もこなすことの意義

文春野球コラム ペナントレース2017

 もう、あのころの球児じゃない。

 阪神・藤川球児の投球を見るにつけ、私は自分にそう言い聞かせている。かつて一世を風靡した火の玉ストレートを武器に虎の絶対的守護神に君臨していた藤川も、来月で37歳になる。MLB移籍やトミー・ジョン手術、独立リーグなどを経て阪神に復帰して以降、たまに往年の片鱗を見せることはあるものの、基本的には衰えを感じてしまう。

 今季ここまでの成績は21試合の登板で1勝0敗、0ホールド0セーブ、防御率2.42(6月21日現在)。数字だけを見ると、決して悪いわけではない。全盛期の売りだった奪三振率も10.07(22回1/3で25奪三振)と相変わらず高い数値を保っている。05年~渡米前の12年までの8年間の成績があまりに突出していたため(防御率0点台が2回、1点台が5回)、あるいは当時の“わかっていても打てないストレート”が極めて鮮烈だったため、ちょっとやそっとの好成績では物足りないような印象を受けるのだろう。

日米通算225セーブを誇る男が敗戦処理も黙々とこなす

 しかし、今季ここまで首位争いを演じている阪神の内部において、この藤川の存在感は外から見る以上に大きいのではないか。ご承知の通り、好調・阪神の要因のひとつはリリーフ陣の安定感だ。主に勝ちパターンで登板する桑原謙太朗、マテオ、ドリスの右腕三人衆に加え、高橋聡文と岩崎優の左腕コンビも安定しているため、6回までリードしていれば高い確率で逃げ切ることが可能になった。

 そんな中、今季の藤川の役割は自軍がビハインドの場面か、リードしていたとしても点差が大きく開いている場面でのリリーフが圧倒的に多い。だからこそ、先述した投手成績を見ると、セーブはおろかホールドも記録されていない。中には、いわゆる敗戦処理と思しき役割で、ただ淡々とイニングを消化したような登板も一度や二度ではなかった。

 よく考えたら、これはすごいことだと思う。

 NPB歴代5位、阪神では史上最多となる通算223セーブ(日米通算225セーブ)を記録し、数々のタイトルも獲得した球史に残るクローザーが、現在は阪神リリーフ陣の中でもっとも日の当たらない、言わば地味な仕事を黙々とこなしているのだ。セーブやホールドは記録されないが、それでもチームのためにイニングを消化しないといけない場面で、ブルペン最年長の元絶対的守護神が荒れたマウンドに向かう。そんな藤川の背中を、彼の全盛期を知っているはずの後輩投手たちはどんな思いで見つめているのだろう。

リリーフ陣を精神的に支えている藤川球児 ©文藝春秋

ベテランになった元クローザーには功績待遇が適用されない

 プロ野球選手も人間であることを考えると、藤川のような元スター投手には相応の自負心があって当然だ。だから全盛期を過ぎて以降も、首脳陣は年齢と実績に最低限の配慮をしながら特例の起用方法を模索したりする。

 もっとも一般的なのは、全盛期に先発完投型のエースとして活躍した投手だろう。彼らはベテランになると、たとえばローテの5番手や6番手、あるいは中7日や中10日、はたまたローテの谷間などで先発したり、先発しても6回でお役御免になったり、とにかく長年の功績があるからこその待遇の中でベテランの味を発揮することが求められる。

 だから、先発投手は時価の能力としてはチームのエースでなくなって以降も、たとえば年間5勝前後は計算できる貴重なベテラン枠として、地道に白星を積み重ねていくことができる。名球会の入会資格である投手の200勝は、確かに近年の野球のスタイルでは極めて達成困難な数字となったが、それでも先発ならジリジリ歩み寄ることができる。

 しかし、ベテランになった元クローザーにそんな起用法は適用されない。

 クローザーの5番手や谷間のクローザーなどは一般的に考えにくく、だから年を重ねてブルペンのトップでなくなった途端、セーブ数はほとんど増えなくなる。セーブという記録においては、衰えて以降も年間5~10を地道に積み重ねていくなんて不可能に近い。

 先述したように現在の藤川は日米通算225セーブで、名球会の入会資格である250セーブまで残り25セーブに迫っている。全盛期の藤川なら1年足らずでクリアできそうな数字だが、現状では難しくなってきた。通算200勝は一流の先発投手が全盛期を過ぎて以降も地道に歩み寄れる記録だが、通算250セーブは一流のクローザーが全盛期のまま駆け抜けるように量産することで達成する記録なのだろう。そう考えると、250セーブも200勝に負けず劣らずハードルが高い。岩瀬仁紀も高津臣吾も佐々木主浩も、みんな偉大だ。