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湯川 れい子
2016/08/02

来日50周年、あの「事件」を掘り起こす

『ビートルズ来日学 1966年、4人と出会った日本人の証言』 (宮永正隆 著)

source : 週刊文春 2016年7月28日号

genre : エンタメ, 読書

 ビートルズ来日50周年を記念して、今回一冊にまとめられたのが、この本だ。

 音楽誌「レコード・コレクターズ」に2009年10月号から連載されてきた同名原稿で、あまりにも熱心な取材力に感心したり呆れたりしながらも、時どき面白がって読んで来た頁だ。

 連載は現在も続行中だし、まだまだ続くという。私も取材を受けているけれど、出て来るのはだいぶ先だろう。430頁近くもあるこの本、手にして半月近く毎晩読んでいるけれど、なかなか読み切れない。

 例えばビートルズは、50年前の6月29日朝3時39分に日航機からハッピを着て羽田空港に降り立ったが、その前には台風でアンカレッジに12時間足止めされていたし、さらにそれ以前にはハンブルグからアンカレッジまで、日航機412便の「松島」に搭乗した。誰がその時アテンドしたのか。スチュワーデスは? ビートルズとはどんな話をしたのか? 彼らは何を食べ、何を飲んだのか?

 この本でチェックする限り、私のビートルズに関する情報などほんの中級の下くらいで、これまでに世に出た関係者インタビューとは較べものにならない濃度であり面白さなのだ。内容は彼らが来日した日から日本滞在中の7月1日に、彼らが買った美術品の詳細とその値段。本当に芸者さんは部屋に入ったのか等々。

 そんなコト知ってどうするの? 何が面白いの? と思われるだろう。例えは古いが「刑事コロンボ」とか「BONES~骨は語る」みたいに、被害者を個人的に知らなくても、その謎解きにわくわくと引き込まれてしまうように、半世紀の埃を被っていた「事件」が掘り起こされて、有名な主人公たちが活き活きと動き、喋り、時に音楽を奏でてくれるのだから、映画かTVドラマでも観るように、時代と情景が動き始めて面白い。

 著者の好奇心、探究心、人間好きが昂じての壮大な人間ドキュメンタリーだと思う。

みやながまさたか/1960年生まれ。集英社「りぼん」編集部を経て音楽評論家に。特にビートルズ研究は国際的な評価も高く、一連の評論活動は「ビートルズ大学」との呼称で知られる。著書に『ビートルズ大学』。

ゆかわれいこ/1936年生まれ。音楽評論家、作詞家。生誕80年を記念した書籍『音楽を愛して、音楽に愛されて』が発売中。