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中国の著名「反日活動家」童増インタビュー

中国の膨張を止められるか(1)

2014/06/10
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毛沢東をけがすことは十三億人民をけがすこと

 筆者は、二〇一二年九月、日本政府による尖閣諸島国有化を受け、中国各地で吹き荒れた大規模反日デモの際、約二万人が気勢をあげた北京の日本大使館前で連日、取材した。そこで見たものは、毛沢東の肖像画を掲げて「小日本を打倒しろ」とデモ行進する大量の若者だった。彼らは何を考えているのだろうか。それを知りたくて一二年十一月、当時話題になっていた左派学者を訪れ、話を聞いた。

 その人は、毛沢東を信奉する左派系サイト「烏有之郷」の発起人の一人で、北京航空航天大学の副研究員・韓徳強氏(46)。北京の日本大使館前での反日デモに参加した際、河北省固安県から来た五百~六百人の集団に混じり行進した。そして帰り際に毛沢東を懐かしむプラカードを持った青年と交流していたところ、「くそったれ」と罵る老人の声が聞こえた。韓氏がこの老人に平手打ちしたことが、中国版ツイッター「微博」などで伝わると、韓氏の理性を欠いた行動への批判と、毛沢東への尊敬から起こした行為への同情で賛否が分かれた。

――老人を平手打ちしたのはなぜか。

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「毛主席は中華民族の大英雄です。毛主席をけがすことは新中国、そして十三億人民をけがすことであり、中国を分裂させる漢奸(売国奴)だ」

――あなたは日本に対してどう認識しているか。

「日本はあの歴史に対して今に至るまで真剣に謝罪しておらず、この点で言えば、日本はまだ軍国主義の亡霊に取り付かれていると感じる。釣魚島の購入(尖閣諸島国有化)も日本軍国主義がまた姿を現したもので、軍国主義の氾濫を防止し、中国領土主権を防衛しなければならない。私が反日デモに参加した理由はそれが目的です」

――デモの際に日本車を破壊する暴力行為が横行したが。

「非理性的かもしれないが、全体としては非常に良好な効果を生んだのではないか。(日本車が壊され)中国市場で日本車の売り上げが低下しなければ、日本政府は立場を軟化させないでしょう。だから中国政府は日本車を壊して焼いた若者に感謝しなければならない」

――日本車はやはり嫌いか。

「私は車を運転せず、車を持っていないが、もし買うとすれば日本車は選ばず、中国国産車を買います」

――日本料理店で一緒に食事でもどうか。

「あなたがもし自分を日本国内の親中派だと位置づけているならば、一緒に食事してもいい。もし反中派ならば、食事しない。また中国人が経営する日本料理店ならいい。われわれの友人だからだ」

――毛沢東の肖像画を掲げる若者をどう思うか。

「(中国に毛沢東がいなくなり)中華民族は再びバラバラの砂に変わり、(十九世紀のアヘン戦争以降のように)中国は再び侵略されるままになり、日本を含めた人々にばかにされてしまうと懸念している。(中国の改革・開放後)三十数年間の外交政策は軟弱となり、若者はそれに対して強烈に感じることがあったのだろう」

 反日デモで「毛沢東」を掲げた若者は、米国やソ連と対決した毛沢東時代の強い外交を望んでいる。一二年十月に話を聞いた三十代の中国人ジャーナリストは毛沢東主義者と称し、「保釣(釣魚島防衛)運動」にも携わった。彼は「中国を引っ張るリーダーは国際的に他国から尊重される強い指導者でなければならない」と語った上で、日本について聞くとこう答えた。

「日本が好きではないとは言っていない。米国の方が嫌いだ。米国は現代戦争の震源地だ。また日本には独立した軍事・外交方針はなく、米国の属国に等しいからだ」

【岡本隆司さんによる「中国の膨張を止められるか(2)」はこちら

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