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日本の領土と魚を狙う中国1000万漁民の正体

中国の狙いは海底のエネルギー資源だけではない。軍事訓練を受け、当局の指揮下にある漁民に警戒せよ

2014/09/09
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五島列島で起こった居座り事件

 2012年7月、長崎県五島列島福江島にある玉之浦という入江に106隻の中国漁船が侵入し、艦隊のように整列した。この漁船の大きさは、100トンから500トンほどあり、五島列島の地元漁船の10倍以上の大きさだ。そして、船上に中国の「五星紅旗」を掲げた船が隊列を組み並ぶ光景は、まるで福建省あたりの中国の港を彷彿とさせるものであった。

 中国漁船団の目的は、台風からの緊急避難ということになっていたが、玉之浦は日中漁業協定で合意している両国の漁業境界ラインから100キロ以上離れているため台風避難とは言い難い。だが、避難名目での入域申請があると、人道的な見地から受け入れを拒むことはできない。そして1週間にわたり居座ったのである。

 玉之浦町の人口は、1800人。この時、玉之浦の海上にいた中国人漁民の数は、3000人ほどであったという。仮に漁民が上陸を始めたら、それを防ぐことはできないだろう。上陸する漁民に銃器はいらない。ナイフや包丁を持つだけで五島列島を占拠することも可能であろう。漁民が相手では自衛隊が対応することは難しい。この中国漁民への対応は、海上においては海上保安庁、上陸後は警察の任務となるが、両機関ともに上陸を阻止するだけの人員はない。これが、まさにグレーゾーンである。早急な対応が求められる。

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 同年8月に90隻弱の漁船団が再び現れた時には、座礁船を救助するためかタグボートまで同行していた。通常の漁船団ではないことは明白である。

 中国漁船団が玉之浦に侵入した本当の目的は、漁船団を使った日本の島嶼部の制圧訓練であり、また、近海の海洋警備の役割をもっていたようだ。

 特に漁船団は、東シナ海ガス田周辺で活動することが多い。これは日本との中間線付近で一方的に進めているガス田開発のカモフラージュであり、日本および米国の艦船が近づくことを阻止する役目を持っている。これらの漁船は、魚群探知機を使い海中に潜む潜水艦をも監視しているのである。

 漁民が一斉に尖閣諸島に上陸を企てる可能性もある。すでに中国当局は、最大1000隻もの漁船団を、東シナ海に送り出す体制を整えているのだ。

 2011年以降、中国当局は富裕層に対し、外洋漁船の建造を推奨している。中国の造船所では、100トンクラスの漁船を、およそ1億円で建造することができる。中国のお金持ちたちは、政府の求めに応じ外洋漁船のオーナーになり始め、既に1000隻以上が完成しているという。魚の供給が需要に追い付かない中国では、魚は売り手市場になっている。そのため100トンクラスの外洋漁船の水揚げ高は、年間6000万円ほどにもなり、新造船は、富が富を呼ぶ魅力的な存在である。また、中国政府としても肉類に比べ安価な魚を国民に提供することで、食に対する不満をそらす意味もあり、漁業を奨励している。

 中国は、南シナ海においても強引な漁業取締策を推進している。2014年1月、中国の海南省は、「『中華人民共和国漁業法』実施方法」を改正し、中国の支配が及ぶ南シナ海の海域内で操業する外国人、外国漁船や調査船は、事前に中国当局の承認を受けなければならないとし、実際に罰則を適用するとしている。この海域は、南シナ海の60%にもおよぶ広大な海域であり、フィリピンやベトナムが管轄権を主張している海域でもある。中国の手法は、まず、中国漁民を獲得したい海域に送り込み、中国の領海法や漁業法に基づき、人民の保護を名目に海軍もしくは海上警備機関が侵出し、島を実効支配してしまうというものだ。

 1995年にはフィリピンが管轄権を主張するミスチーフ礁、2012年には、スカボロー礁を同様の手法で支配海域に組み入れてしまった。獲得した島々や環礁を基点として、支配海域をさらに拡大しているのである。中国にとって漁業繁栄と支配領域の拡大の野心が一体であることは忘れてはならない。

 また、中国漁民にとって、東シナ海においてたびたび摘発される赤サンゴ、南シナ海におけるウミガメの密漁など、金になれば、環境破壊などお構い無しだ。

 かつて日本も乱獲の時代があったが、日本は反省し、次世代の漁業へ向け動き出したところだ。東シナ海、南シナ海における中国の動向に目を光らせ漁場を守ることは、アジアの国々の平和と安定につながることなのである。

日本の領土と魚を狙う中国1000万漁民の正体

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