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集団的自衛権はナショナリズムではなくリアリズム

集団的自衛権容認は日本の右傾化なのか (1)

2014/05/26
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靖国参拝とは無関係

――朝日こそ時代錯誤です。個別的自衛権の拡大こそ「いつか来た道」でしょう。その朝日新聞が今年三月十六日付朝刊一面に《(集団的自衛権 行方を問う)「ナショナリズムとの連動、懸念」ナイ教授に聞く》と題した記事を掲載、こう報じました。

「オバマ米政権に近い米国の知日派の代表格として知られる米国のジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授(元米国防次官補)が朝日新聞のインタビュー取材に応じた。安倍政権が進める集団的自衛権を巡る憲法解釈の見直しに向けた動きについて、安倍晋三首相の靖国神社参拝などを例示して『政策には反対しないが、ナショナリズムのパッケージで包装することに反対している』と語った」

石破 集団的自衛権と靖国参拝に、何の関係があるというのですかね。私は憲法改正論者ですし、集団的自衛権行使を可能とすべきとずっと考え、行動していますが、靖国神社にはある時期からは参拝しておりません。これは私なりの考えですが、政治家の務めは自ら参拝することではなく、天皇陛下に御親拝を賜る環境を整えることだと思っています。それがかつての大日本帝国と英霊との間に交わされた約束ではないのか。われわれ戦後の政治家は、その約束を実現しなければならない。それが実現でき、天皇陛下が御親拝されたら、私はその日のうちに参拝するつもりです。

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 靖国参拝と集団的自衛権には何の関係もありませんし、ナショナリズムから集団的自衛権を議論しているわけでもありません。地域における抑止力を高めるか否か。問われるべきは、その一点です。

――米誌「タイム」(アジア版)の表紙の顔に安倍総理が起用され、「パトリオット(愛国者)」と紹介されたことを懸念する声もあります。

石破「パトリオット」は米軍の迎撃ミサイルの名称にもなっているように、けっして悪い意味ではありません。「ナショナリスト」とは違います。

――むしろナショナリズムと批判されるべきは、日本の政府・自民党ではなく中国、韓国ではないのかと私は感じています。中国や韓国のほうが、日本よりナショナリスティック(国家主義的)だと思いますが、なぜかマスコミは「日本の集団的自衛権行使を国際社会が懸念している」と批判します。

石破 集団的自衛権行使についての批判を、国連常任理事国たる中国や、国連事務総長を出している韓国が言うのは本末転倒でしょう。常任理事国である中国や事務総長の任を負う韓国こそ、国連憲章の理想を体現すべきであり、集団的自衛権は国連憲章が認めている権利なのです。先日まで訪米していましたが、会談した中で日本の右傾化に対する懸念が示されたことはありませんでした。バイデン副大統領、ヘーゲル国防長官、国務副長官、あるいは下院議長、院内総務その他、共和党・民主党問わず、多数の政府高官や議員に会いましたが、誰一人「安倍はナショナリストだ」などと言った人はいません。むしろ皆さんが共通して表明したのは、日本ではなく中国への懸念でした。アメリカのみならず国際社会は、中国の不透明な軍拡や強引な海洋進出を不安に思っています。

 私は昭和六十一年から議席を頂いていますが、二回目となった平成二年の総選挙以来、集団的自衛権行使を公約に掲げてきました。ようやく今、その議論がメジャーになっています。一昨年秋の自民党総裁選で真正面から集団的自衛権を問うたのは、安倍候補と私だけでした。示し合わせたわけではありませんが、演説の内容もかなりの部分で重なりました。二人とも憲法改正と集団的自衛権を唱え、決選投票で安倍候補が勝った。その後自民党は安倍総裁、石破幹事長という体制で、衆・参の国政選挙に勝利した。以上の経緯を考えても「時の首相の一存」ではありえません。

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