文春オンライン

名無しの関係をたくさん見つけたい。関係採集家のようなものだと思います。──「作家と90分」青山七恵(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/07/02

genre : エンタメ, 読書

note

読者から青山さんへの質問

■青山先生の作品は、読みながら情景をイメージしやすいところが好きです。先生の作品は、映画化やドラマ化などされていないと思いますが、映像化されるとしたら、脚本やキャスト、音楽にこだわりはありますか。それとも映像化は望まれませんか。(40代・男性)

青山 自分ではあまりうまく想像できませんが、映画は大好きなので、映画になったら嬉しいだろうと思います。使われる音楽だけ、1曲くらいリクエストしたいですね。執筆する時には音楽はかけませんが、その時期に日常的に聴いていた音楽と小説って、やっぱり繋がっているので。

ハッチとマーロウ』で言うなら、ジョニ・ミッチェルの“Morning Morgantown”という曲ですね。

ADVERTISEMENT

■これを読めば絶対に作家になれるという本を10冊まで絞り込んでください。(30代・男性)

青山 えーっ。あとですごく責められそうな質問ですね(笑)。でも、そういう近道をしようという気持ちはダメな気がします。ごめんなさい。

■旅行代理店にお勤めだったそうですが、旅は好きですか。国内国外それぞれ好きな旅先を教えてください。(30代・女性)

青山 通っぽい意見ではなくて申し訳ないのですが、イギリスが1番で、2番目がポルトガルですね。イギリスはやっぱり小さい頃からの憧れの国で、ロンドンが大好きです。エリザベス・タワー(旧称:ビッグ・ベン)や国会議事堂をテムズ河越しに見るとすごく気分が高揚します。とにかく街並みが好きだし、イギリス英語もイギリス王室も音楽も好きですね。食べ物がおいしくないとか言われますが、まったく気にならないです。ポルトガルは大航海時代に栄華を極めていた国ですが、「昔派手でしたが今こんな感じです。昔は昔ですよね」という雰囲気なんです。昔の栄華にすがるのではなくて、栄華の余韻のなかで人々が静かに暮らしている感じが良くて、海外で初めて、ここでならずっと暮らせるかも、と思った国です。

 国内だと、一昨年行った富山がよかったですね。お魚が美味しかった。あと最近のお気に入りは埼玉のときがわ町にある堂平天文台です。山の上にあるので行くのが大変なんですが、晴れると星がきれいに見えます。

■文章はどうすればうまくなるのでしょうか。デビュー前、文章修業として何をしましたか。(20代・男性)

青山 本を読むくらいでしょうか。たくさん読まなくても、1冊1冊、身を入れて読むことが大事だと思います。そこに書いてある文章に高揚したりカッとしたり打ちのめされたり、そういうほとんど肉体的な経験が大事なんじゃないでしょうか。

■青山さんのような純文学作家の場合、執筆までにどれくらい作品の設計図を作るものなのでしょうか。結末まで決めるのか、それともおおまかな人物像だけを作って書き始めるのか。どうされているのでしょう。(20代女性)

青山 設計図は書かないですね。なんとなく最初に、こういう感じの話になるだろうというぼんやりしたイメージはありますが、やっぱり書いていくことでしか分からないことってあります。

 終わり方もいろいろで、『めぐり糸』を書いた時は、書けば書くほど、書き続けるほうが自然にかなっているように思えて、結局すごく長くなりました。『ハッチとマーロウ』のようにひと月の出来事を1年書くとはっきり形式が決まっている場合は、自然と着地できます。走り幅跳びみたいに、だいたいあの辺まで跳ぶぞと考えていると、それに適した助走ができるんでしょうけど、いっぱい助走しても、あ、こんな近くで着地しちゃったという時もあるし、反対にあれ、全然着地できない、地面が遠い!という時もあります(笑)。

■『』は姉妹の話ですが、青山さんは妹さんがいらっしゃるとインタビューで拝読しました。姉として生まれたことで、ご自分の性格形成に何か影響があったと思われますか。作家でも姉タイプ、妹タイプ、一人っ子タイプがあるのでしょうか。(40代・女性)

青山 私の場合、妹とは歳も近いし、彼女は私よりも背が高くて人格的にも優れているので「私が守らなきゃ」みたいな姉らしい気持ちは皆無でした。でもやっぱり、男女問わず年下の人に頼られると無性に嬉しくなるのは、私が姉だからなんでしょうか。しかし作家として姉タイプというのはどういうことなんだろう。お姉ちゃんぽい小説、というと、なんとなくジェーン・オースティンの小説を思い浮かべましたが、彼女は長子ではないですね。でも面白い分類なので、心に留めておきますね。

青山七恵さん ©榎本麻美/文藝春秋

青山七恵(あおやま・ななえ)
1983年埼玉県生まれ。2005年、筑波大学図書館情報専門学群卒業。同年、大学在学中に書いた『窓の灯』で文藝賞受賞。2007年、23歳のときに『ひとり日和』で芥川龍之介賞受賞。2009年、『かけら』で川端康成文学賞を歴代最年少で受賞。著書に『快楽』『めぐり糸』『風』『繭』など。

名無しの関係をたくさん見つけたい。関係採集家のようなものだと思います。──「作家と90分」青山七恵(後篇)

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー