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連載THIS WEEK

古森 義久
2016/02/20

拉致調査全面停止
無法国家の実態が改めて浮き彫りに

source : 週刊文春 2016年2月25日号

genre : ニュース, 社会, 国際

取材に応じる家族会代表の飯塚繁雄氏
Photo:Kyodo

 北朝鮮が2月12日、日本人拉致事件の再調査の全面停止を発表した。再調査のための「特別調査委員会」も解体するという。拉致解決を最優先目標に掲げてきた安倍政権にとっての痛打という印象は否めない。なにしろ安倍晋三首相自身が先頭となってきた案件だけに政権運営にも影を落としかねないだろう。

 だが事態の背景をみると、北朝鮮の無法国家としてのしたたかな策略が浮かびあがり、日本側にも反撃の余地はありそうだ。硬軟両面での現実的な対応が求められる。

 拉致被害者の「家族会」と「救う会」はすぐに「実質的意味のない特別調査委員会の解体に一喜一憂しない」として、さらなる制裁強化と国際連携を求める声明を出した。「家族会」代表の飯塚繁雄氏も「この調査委はもともと茶番であり、その解体にも驚かない」と語った。北朝鮮当局は拉致被害者を厳重に管理しており、再調査の必要などないとの認識だろう。

 北朝鮮政府は日本側との「ストックホルム合意」に基づく再調査結果を1年ほどで通告する約束だった。だが1年半が過ぎてもなにもなし。同合意は踏みにじられていた。長距離ミサイル発射に対する日本側の独自制裁は、その合意破棄の都合よい口実となったわけだ。

 アメリカ政府の国務、国防両省で北朝鮮を担当したチャック・ダウンズ氏は『北朝鮮の交渉戦略』という書で「北側は交渉相手を『楽観』『幻滅』『失望』という邪悪の3サイクルで順番に回していく」と述べている。

 まず大きく譲歩するようにみせかけ、楽観した相手が出てくると、やや引いて幻滅させ、さらに断固たる拒否で失望させる。そして交渉再開で相手に大きく譲歩させる戦略なのだという。欠陥だらけのストックホルム合意の協議に応じた日本外務省への教訓ともなりそうだ。

 同時期にアメリカでは米国人青年が北朝鮮工作員により中国から拉致された可能性が認知された。米政府に本格調査を求める決議案が議会上下両院に出た。さらに北朝鮮に対する独自の厳格な制裁法案も可決。この動きが国連での制裁強化と合わせて、北朝鮮への圧力を増し、日本人拉致の解決に新たな展開をもたらす可能性も生まれてきた。

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