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新浪剛史の教え#2「経営に必要なインナーマッスルの鍛え方」

私はこう考える――新浪流・乱世を生き残るための教科書

2017/07/18
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 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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グローバル経営とローカル経営

 私はこれまでグローバル経営と、ローカル経営の両方を経験してきました。その中で、自分で意識してやってきたことは、一口に言えば、インナーマッスルをしっかりとさせるということです。では、具体的にはどういったことなのか。

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 それは自分のビジョンや、会社としての大事な部分は曲げてはいけないということだと言ってもいいかもしれません。それはグローバルであろうがローカルであろうが、変わりはありません。つまり、グローバルでもローカルでも根っこのところは絶対一緒にしなければいけない。

 例えば、サントリーは、外国人も含めて現在の幹部から将来幹部になる人まで皆が根っこのところを同じように理解してもらわなければならないのです。そこでサントリーでは、「やってみなはれ」といった創業精神を世界中の社員に浸透させ始めています。そうした共通の価値観を共有した上でみんなで刺激し合うことから、アイデアが生まれ新しい価値がつくられると考えています。

会社の理念が信頼につながる

 それには山崎蒸溜所へ行ったり、白州蒸溜所へ行ったり、今までの会社の歴史を勉強してもらって、サントリーというものを肌で感じてもらう。また、サントリーホールやサントリー美術館といった文化事業や、さまざまな社会貢献活動に触れることで、社会とのいい意味での向き合い方を考えてもらう。さらにサントリーは水という自然の恵みを事業の基盤としていますから、水を育む森を整備する活動に参加してもらって、みんなに実際に同じことを体験してもらいたいのです。

 その意味で、私が参考にしている会社がヘルスケアカンパニーの米ジョンソン・エンド・ジョンソンです。彼らは自分たちの会社はこうあるべきだという確かな理念を持っています。もし理念に対して、それに基づかないことが起こったら、コストを度外視しても処理していく心構えを持っているのです。

 それが結果として、絶大なる信頼につながっていくわけです。社会からの信頼をどう勝ち取っていくか。そのやり方は企業によって違ってきます。サントリーはジョンソン・エンド・ジョンソンのように社会から信頼をいただいている会社です。だからこそ、グローバルでもローカルでもお客様の信頼は絶対に崩してはいけないのです。

信頼が第一 ©文藝春秋/石川啓次

経営はヒューマンでありたい

 グローバルな経営者として、かつて私がハーバードで勉強していたときに印象に残っている人にGEのCEOで経営の神様と言われたジャック・ウェルチがいます。彼の経営手法とは、事業セグメントごとに1位か、2位以外の事業はやらないというものです。やらない事業を明確にするという彼の経営手法は本当にすごいと思います

 ウェルチは、自分の考え方を社内に浸透させ、取捨選択を徹底させるということをやってきました。それは企業の考え方としてはいいのですが、私はそこにもっと普遍的な哲学のようなものも必要だと思うのです。

 私が言いたいことは、経営はもっとヒューマンであってもらいたいということです。それは、結局は人がやることだからです。会社は人が支えています。日本の企業の良さというのは、会社の中にいる人たちを育てるということです。それは今のアメリカの企業にも、求められていると思います。

 ヨーロッパで考えると、ネスレはブランドを育てると同時に社員にチャンスを与える会社です。だから、ネスレは外資系では例外的に長い期間、会社に残っている人が多いのです。そういう意味では、私たちのような日本の会社に近いのかもしれません。