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小泉 武夫
2017/07/02

日本人の豊かな食生活を縄文時代から解き明かす

小泉武夫が『「和の食」全史 縄文から現代まで 長寿国・日本の恵み』(永山久夫 著)を読む

『「和の食」全史 縄文から現代まで 長寿国・日本の恵み』(永山久夫 著)

 私は大学で「食文化論」や「発酵食品学」を講義している輩である。学生たちがとても興味を示すのは、「食の始まり」、「食の歴史」、「酒の発生」といった、日本の食生活の原点だ。その周辺を知りたいという思いを、気軽に楽しく満たしてくれるのが本書であろう。

 例えば、縄文時代の食生活など誰も見たわけでもなく、また考古学的解析でうっすらと当時の有様を推考し、記録していくのが精一杯である中で、本書では、当時の縄文人が食べていた食材を、極めて多くの資料や研究書をもとに挙げている。例えば貝類三五〇種以上、獣類六〇種以上、魚類七〇種以上もあったとし、食材を列挙しつつ、縄文人の豊かな雑食時代を想像させてくれるのである。そして、以後に続くどの時代でも、日本人が実践してきた食事は、この民族独自の知恵と工夫、発想などによって編み出されてきたことが随所から読みとれる。

 さらに、本書の楽しいところは、貴族たちの食、歴史上に名を馳せた美女たちの食生活、戦国武将の強さと彼らの食事から見た戦略、長寿のための食事法など、浪漫と心躍る話題が全編に流れていることである。

 こうして、縄文時代から江戸時代までの約一万三〇〇〇年の日本人の食生活を論じた上で、明治から現代までの日本人の食の遍歴を牛鍋、ライスカレー、ビヤホール、コロッケなどで懐かしむ。そして圧巻ともいうべき、第二次世界大戦中の困難な時代を、いかに知恵と工夫をこらして切り抜けてきたかの食べ物、食べ方の記録は、日本人の底力を彷彿とさせて、目頭に熱いものが滲む思いである。

 本書に著者直筆のイラストが多数掲げてあるのも楽しく、また膨大な参考文献を駆使して、それらをやわらかく解説し、物語的口調で述べているのも、読者をのめりこませる一因だ。

 総じて、日本人とはなんぞや? を食を通して語っているようにも読めて、読書後、大いに満足すること請け合いである。

ながやまひさお/1932年福島県生まれ。食文化史研究家。長寿食研究所所長。古代から明治時代までの食復元の第一人者として活動。『和食の起源』、『日本古代食事典』『日本の酒うんちく百科』など著書多数。

こいずみたけお/1943年、福島県生まれ。発酵学者、東京農業大学名誉教授。近著に『超能力微生物』(文春新書)などがある。

「和の食」全史 縄文から現代まで 長寿国・日本の恵み

永山久夫(著)

河出書房新社
2017年4月26日 発売

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