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山下貴嗣「“日本人の強み”が生きるビジネスはチョコレート作りだった」

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2017/06/30
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 世界30ヶ国超から出品された約600銘柄がその味を競う「インターナショナルチョコレートアワード」。地域予選を勝ち抜いたチョコレートメーカーが集う世界最高峰の品評会で、昨年、日本のベンチャー「Minimal」(以下ミニマル)が油分や香料などを加えないシンプルな板チョコレート部門で銀賞を受賞した。同部門での受賞は日本勢として初。この栄誉に、ミニマルの代表・山下貴嗣さんは「勇気をもらった」と振り返る。

 大学卒業後、経営コンサルティング会社に就職。順風満帆な生活を送っていたが、2014年に退職して30歳でミニマルを立ち上げた。そのきっかけとなったのが、現在同社で製造責任者を務める朝日将人さんとの出会いだった。

「経営コンサルとして働いているうちに、日本人の強みはきめ細かさだと考えるようになりました。その優位性を活かしたビジネスをしてみたいと考えていた時に、カフェを経営していた朝日が手作りしたチョコを食べて、衝撃を受けたんです。オレンジを丸かじりしたような味がして」

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 当時、欧米ではカカオの選別からチョコレートの製造・販売までを一貫して行なう「Bean to Bar」と呼ばれる手法が流行しており、朝日さんも同様にして作っていた。さらに、製造の過程でミルク、バター、香料などを追加するのが主流のなかで、朝日さんは余計な手を加えず、カカオと砂糖だけで見事に果実のような風味を引き出していた。

 このとき山下さんは、日本の和食のように、カカオの繊細な味を活かしたチョコレートに可能性を感じた。欧米のみならず、日本のチョコレートの市場も2011年から右肩上がりで伸びている。これはいける! と直感し、朝日さんに声をかけて起業。14年12月、渋谷区富ヶ谷に工房付きショップを開店した。

 カカオの買い付けは山下さんの役割だが、最初の頃は無名かつ取引量も少ないので、生産者に相手にされなかったという。それでも地道にコミュニケーションを取り、質の良いカカオを共創する取り組みを続けている。

カカオ豆と砂糖だけでカシスの風味を楽しめる「FRUITY BERRY-LIKE ベトナム」は1296円(税込)。チョコの型にも工夫を凝らしている。

「ほとんどの産地の人はチョコを知らないので、現地でチョコを作ってワークショップをやっています。そこで僕らが求める質を覚えてもらい、良いカカオができたら市場価格より高く買い取るという交渉をしています」

 ミニマルのチョコレートは、カカオの風味を際立たせるために、あえて粒子を残したザクザクとした食感が特徴。当初、「チョコレートは口どけ。こんなの絶対に売れない」と言われたそうだが、瞬く間に話題となり、今年1月には3店舗目をオープンした。

 受賞によって世界的にも注目を集め、イギリスの某高級百貨店からも声がかかる。

やましたたかつぐ/1984年、岐阜県生まれ。コンサルティング会社勤務時は、マネジメント業務や新規事業の立ち上げ、東証一部上場も経験した。退職してから起業するまでの間にアメリカ、中南米、欧州を巡り、「Bean to Bar」の潮流を肌で感じて、帰国してから4カ月で店をオープンさせた。

山下貴嗣「“日本人の強み”が生きるビジネスはチョコレート作りだった」

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