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新江ノ島水族館「クラゲ展示はここから始まった」――水族館哲学2

水族館プロデューサー・中村元の『水族館哲学』から紹介します

2017/07/08
note

私がプロデュースするうえで、本当にやりたかったこと 

 実は私にとっても、水族館プロデューサーとして独立して初めて展示を監修監督させていただいた水族館であると同時に、展示に「観覧者起点」の理念や「水塊」の概念を初めて実践した水族館で、感謝の念が尽きない。 

「水塊」を導入したのは、展示テーマとした「相模湾」と「クラゲファンタジーホール」の展示においてだ。狙いは、縄文時代から人の暮らしに恵みを与えてきた相模湾を、日本人が海に対する感謝と畏れの気持ちを持てるような水中世界として展示すること。そして、「全ての命に魂が宿る」と考える日本人の世界観に訴えかけ、クラゲの浮遊感の儚げな美しさを感じさせることだった。

クラゲの展示では、他の水族館を牽引してきた先駆者だ。写真はベニクラゲ。

 1990年前後より国内で始まった水族館の建設と建て替えラッシュでは、そのほとんどが一様に、米国のリゾート開発や水族館の展示技法に学び追いつこうとする、まるで明治時代の欧化主義が甦ったかのような様相だった。 

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 そこで、新江ノ島水族館が相模湾にこだわるのなら、日本の風土文化にもこだわり、日本らしい展示を世界に発信すべきであると考えたのだ。理由の一つには、それが、欧米リゾート的な水族館の続出にそろそろ食傷気味の日本人には、きっと新鮮に映るであろうという狙いもあった。

世界初の展示を常に追求。
世界初のクラゲ展示は、美しい「クラゲファンタジーホール」で見ることができる。