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七一デモ現地取材 返還20周年を迎える香港の憂鬱

中国に飲み込まれるか逃げ出すかの究極の選択

2017/07/11

genre : ニュース, 国際

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 毎年の香港返還の記念日に、香港や中国の民主化を訴えておこなわれる七一デモ(七一大遊行)は現地の風物詩だ。香港では英国植民地時代以来、完全な普通選挙による民主主義体制が根付いたことは一度もないが、一方で言論や表現の自由は保障されてきたため、デモや社会運動を通じて主張を訴える文化が定着している。なかでも七一デモは中国政府に批判的な香港人にとって最も重要なイベントのひとつだ。

 このデモは、参加者数そのものが香港社会の対中国感情をはかるバロメーターですらある。例えば、中国政府がSARS(重症急性呼吸器症候群)流行の情報を隠蔽した2003年には50万人が参加した一方で、港中関係(香港と中国の関係)が良好だったゼロ年代後半の参加者数は4~8万人程度。さらに雨傘革命前夜の反中感情の盛り上がりが見られた2012~2014年には例年40~50万人が参加……、という具合である(参加者数はいずれも主催者発表)。

デモの集合場所付近の路上は香港のさまざまな政治団体や社会運動団体の見本市のようになっていた。たとえ似たような主張をしていてもあまりひとつにまとまらず、小規模な組織がたくさん存在するのが香港の特徴だ。
七一デモの出発場所付近でデモ隊に罵声を浴びせる、親中国派の団体。話をしてみると、意外にも中国大陸から来た人たちではなく中高年層の香港人が多かった。
香港返還20周年ではなく、「陥落20周年」。中国政府の統治に違和感を持つ人にとっては、こちらの表現のほうがしっくりくるようだ。
小雨が降るなか、デモのルート上で街頭演説していた「雨傘革命の女神」女子大生活動家の周庭。立ち止まって写真を撮る外国人記者も多かった。
今年の人出は不調だったとはいえ、それでも数万人が政治主張を掲げて街を歩く様子は圧巻だ。香港の市民はデモ慣れしており、騒音や交通規制に文句を言う人は少ない。

 今年6月30日、中国外交部は香港の返還後50年間の自治を定めた中英共同宣言を「現実的な意味を持たない」とする声明を出し、旧宗主国のイギリスの意向を無視してでも取り込みを進めていく姿勢を示した。また6月末、中国人民主活動家の劉暁波が、中国国内の獄中で末期ガンに侵されていた(現在は一時釈放され療養中)ことが判明し、香港の民主派の間では衝撃が広がった。香港社会の対中国感情も悪化の一途をたどっている。

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 だが、それにもかかわらず今年の七一デモの参加者数は6万人にとどまり、昨年の11万人の約半分に落ち込んだ。習近平が返還20周年を祝って香港を訪問中で街がピリピリしていたことや、ときおりスコールがパラついた当日の天候も一因だろうが、それ以上に濃厚なのは社会を覆う無力感だ。現地のある大学生はこう話す。

「2014年の雨傘革命は成果が出ず、いくらデモをしても社会は変わらなかった。昨年の立法会(香港の国会に相当)選挙も今年の行政長官(大統領に相当)選挙でも、親中派に有利な選挙制度のせいで、中国に不満を持つ人の声は反映されなかった。最近は政治に対する絶望すらも広がっています」