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連載松尾諭「拾われた男」

松尾 諭
2017/07/23

「拾われた男」松尾諭 #5 「御殿場の戦場ロケで初めてのセリフを叫んだ日」

 学生時代、大阪ミナミのひっかけ橋こと戎橋を歩いていると、マイクを持った長髪で髭面の大柄な男性に声をかけられた。テレビでよく見る、自称探偵の彼はカメラクルーと共に二十代後半とおぼしき女性を連れていた。話によると、鳥取在住の彼女はこれまでの人生で一度もナンパをされたことがないので、三十になる前にどうしてもナンパをされてみたいがためにわざわざ西のナンパのメッカ・ひっかけ橋を訪れたとの事。彼はマイクを向けて聞いた。

「彼女をナンパしたいと思いますか?」

 初めて向けられるテレビカメラとマイクを前に、気の利いた事を言いたかったけど、緊張して「思いません」としか答えられなかった。これが初めてのテレビ出演だった。番組名は「探偵ナイトスクープ」と言う。

まつお・さとる/俳優。1975年生まれ。「連続ドラマW アキラとあきら」に出演。WOWOWプライムにて毎週よる10時放送中(全9話)

戦争モノの映画に出演できることになった

 北青山のアパートで同居をしていた、映画監督志望の塚本の友人の知り合いに林さんと言う役者がいて、その知人の助監督が、映画の撮影に向けて出演者を募集していると言う。内容は戦争モノで、日本兵の役なので、条件は二十代で坊主頭との事だった。当時塚本も坊主頭だったが、演技には自信がないからと、坊主頭で役者志望の同居人に話を持ってきた。エキストラではなく、セリフもあると言うので、快く引き受けた。ただし演技に自信があったわけではない。

 塚本から林さんを紹介してもらい映画の概要やスケジュールなどを聞いた。林さんは長髪にパーマで、やや強面で年も十ほど上だが、とても気さくでひょうきんな方だった。三十代半ばの林さんも、坊主頭にすることを条件に出演できることになったそうだ。撮影現場での心得を聞くと「とにかく分からない事があったらなんでも聞いてくれ」と笑顔で答えてくれた。