昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

鼠入 昌史
2017/07/17

古墳が日常の中にあるというのがおもしろくて

 コンペを経てデザインを依頼したのは、佐藤オオキさんが代表を務めるデザインオフィスnendo。佐藤さんが「天理市に約1600基も古墳があるというのはおもしろい」と目をつけて、古墳モチーフの広場になったという。佐藤さんは話す。

「天理って、どこを歩いても古墳があるんですよね。小高い丘があったら全部古墳ですと。それを大事に扱っているかというとそうでもなくて、農作物を育てていたりする。古墳が日常の中にあるというのがおもしろくて、じゃあいくつか古墳が増えたところでいいでしょうと(笑)」

佐藤オオキさん ©平松市聖/文藝春秋

 古墳の“円形”という形状には大きなメリットがあった。当初の計画では鉄骨で骨組みを組んで周囲を地元産の木材で覆う予定だったという。だが、建設資材の高騰によりそれは難しくなり、工場で製造したコンクリート製のパーツを組み合わせる方式に改めたのだという。

「ケーキのひとかけらみたいなブロックを積み木のように組み合わせているんですが、これが実に安定するんです。円形だからお互いに押し付け合うことでバランスの良い構造物になる。また、円形の良さは他にもあって、裏ができにくいんです。四角い構造物だとどうしても裏ができて、どうしても裏はスラム化してしまいがちになる。でも、円だとそれがない。全方位から人が集まってくるようなものになるわけです」

「古墳」は「ケーキのひとかけらみたいなブロックを積み木のように組み合わせている」 ©平松市聖/文藝春秋

「古墳」を階段状にしたのには理由がある

 人が集まりやすくするための工夫は他にもあった。

「コンペ前に初めて天理駅に行ったとき、正直圧倒されたんです。広いし何もないし誰もいないし。日本人って、がらんどうの広場が苦手なんじゃないかと思うんです。海外だと広場のあちこちに人が座って思い思いに過ごしていますけど、日本人はどうしても端っことか路地裏とかに寄っていく。だから、真ん中に駅から商店街に抜けていく大通りができるようにこの古墳を配置して、路地っぽいイメージを出せればと。階段状にしているので座る場所にもなるし、人が集まるきっかけづくりという意味での古墳なんです」

©鼠入昌史

 さらに、「機能を特定させないこと」が大事だとも佐藤さんは言う。デザイナーが「ここは歩いてください、ここはホールなのでなにかイベントをやってください」というように使い方を押し付けるのではなくて、“どこで何をやっても良い”という緩やかさ。これが公共の場のあるべき姿のひとつだというわけだ。

 実際、今の賑わいを生み出している要因のひとつは“どこで何をやっても良い”という市側の姿勢によるところも大きい。天理市の吉本さんは言う。

「先日は地元奈良県のプロレス団体が興行をやってくれました。聞けば、他の自治体では開催が難しいようなんです。週末は隔週で天理市や周辺の特産物を売るマルシェをやっていますし、とにかくどんなイベントでもいいからどんどん使ってもらいたい。他の町でダメなら是非天理で。ありがたいことに、イベントスペースの予定は秋まで埋まっています」

裏表のない、集まりやすいスペースがいたるところにある ©鼠入昌史