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丹野 智文
2017/07/17

39歳でアルツハイマーを告知された私が病気をオープンにした理由

認知症当事者3人のスコットランドの旅 前編

元気な当事者はみな「工夫」している

 認知症になる前は、みんな普通に自立していたはずです。どうして認知症になったら「自立」が問題になるのでしょうか。なぜ認知症になるとリスクや責任が問われるのでしょうか。それは認知症の人が自立させてもらえない環境があるからだと思います。

 仮に自分でハサミを使って怪我をしても、「誰が責任を取るの?」とは言われません。認知症になると、なぜか「誰が責任を取るか」という話になります。子供だって、危険でもハサミを使わなければ、いつまでたってもハサミを使えません。子供用のはさみのように危なくないような工夫が必要です。それには、周りが助けるのではなく、見守ることが必要ではないでしょうか。

 スコットランドでも自立している当事者は元気でした。そして、私が会った人はみんな自立のための工夫をしていました。

スコットランドでの再会を喜ぶ/同行した石原哲郎氏より提供

誰だって自立したい

 ときどき「丹野さんみたいに工夫できる人ばかりじゃないんだよ」と言われることがありますが、そうでしょうか?

 当事者は誰だって工夫して、自立したいと思っているはずです。私たちがいちばん望むのは、出来る限り認知症になる前の生活に戻すことです。「自立」するということは、そこへ近づけることです。現実にはさまざまな障害があって、簡単ではありませんから、そのための工夫が必要です。一歩でも以前の生活に近づけるなら、当事者は喜んで工夫するはずです。

 でも実際は工夫する人が少ない。なぜ工夫しないかといえば、先にも述べましたように、守られているので、工夫しなくても済むからではないでしょうか。

 最近、ご主人が認知症というご夫婦と食事をしましたが、隣に座った奥さんが、ご主人のために箸を割ってあげたり、コップを渡してあげたりしていました。トイレに行こうとすると、さっと立ち上がってついて行って「1人でできる?」と言って外で待っています。トイレから戻れば「大丈夫だった?」。なぜそんなに心配なのか、不思議でした。

 生活する上で困るからいろいろ工夫するのですが、日本人はやさしすぎて、工夫しなくても困らないのかもしれません。もしかしたら、認知症になって困っているのは、本人より家族ではないでしょうか。

 でも、1人暮らしの認知症の人はそういうわけにもいきません。だから100%と言っていいくらい、みんな工夫しています。

 たとえば、どこに服を入れたかわかるように、タンスをクリアケースにするとか、忘れないようにカバンを1つにするとか、カレンダーに予定を書くとか、あるいは、バッグを忘れてもすぐわかるように、鮮やかな色にするとか、さまざまな工夫をしています。

丹野さんが1ヶ月の仕事の内容をメモし、やり忘れがないかチェックするノート

 今回、一緒にスコットランドに行った竹内裕さんも山田真由美さんも1人暮らしです。皆さんそれぞれ工夫しています。竹内さんはタブレットでスケジュール管理をしていて、認知症になってからも1人でトルコを旅行したりしています。山田さんは1人で服が着るのが難しくなってきたから、服に目印を付けて着られるようにしていました。

 竹内さんや山田さんのように、日本でも病気をオープンにする当事者がもっと増えたらいいなと思います。その人たちが各地で認知症のことを発信するようになれば、認知症の人にとってきっと住みやすい社会に変わるはずです。それが当事者の力なのです。スコットランドを旅しながら、あらためてみんなで旅してよかったと思いました。

右から、竹内さん、マキロップさんご夫妻、山田さん/同行した石原哲郎氏より提供

〈取材・構成=奥野修司〉

丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-

丹野 智文 (著), 奥野 修司 (著)

文藝春秋
2017年7月13日 発売

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