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丹野 智文
2017/07/18

39歳の認知症当事者がスコットランドを旅して分かった「認知症にやさしい社会」

認知症当事者3人のスコットランドの旅 後編

 丹野智文さんは、同じ認知症の仲間2人と一緒に、認知症への取り組みが最も進んでいるといわれるスコットランドを旅した。そこで感じたことは、日本の当事者は夫婦べったりなのに対し、スコットランドではそれぞれの自主性を尊重していることだった。そして、たとえ症状が進んでも、自立することを誇りにしていた。

 だから、認知症の当事者が自立するためのさまざまなサポートツールも研究開発されている。さらに、サポートする人たちも、必要最小限の手助けをするようにしていた。スコットランドで認知症への理解と取り組みが進んだのは、これら自立する当事者が、自ら病気をオープンにして発信するようになったからだと、丹野さんは考えている。

丹野智文さん ©文藝春秋

 前回、イギリスでは認知症の人のためのグッズが大学で研究開発され、認知症カフェで売られている話をしましたが、実は、スコットランドの認知症カフェはすごく面白いので、ぜひ紹介したいと思います。

日本の認知症カフェ事情

 日本の認知症カフェとの違いを理解してもらうために、まずは日本の認知症カフェ事情をお話しさせてください。

 認知症カフェを簡単にいえば、認知症の人や家族や地域の人たちが集って話ができる場で、日本にもあります。認知症の人の居場所として利用する機会が多いので、行かれた当事者はいると思います。私も行きました。では行って面白いかというと、本当に面白いと思えるカフェはどれだけあるのか疑問です。

 名古屋に「モーニングカフェ」というのがあって、さすがモーニング文化の土地なんだと思って楽しかったのですが、そんな認知症カフェは少ないと思います。まず、どこへ行っても尋問のような質問をされます。

「いつ病気になったの?」

「困っていることはありますか?」

 当事者をお客様扱いにするところも少なくありません。おかしいですよね。それでは当事者にとっても居心地が悪いはずです。それに、認知症になったからといって、「認知症カフェ」の看板を掲げているところに行きたいと思うでしょうか?

「面白くないけど、行かないと家族に迷惑をかけるから行ってるんだ」と言った男性の当事者がいました。多くの人は、認知症カフェに「行く」のではなく、家族に「連れて行かれる」のではないでしょうか。

 でも考えてみれば、これも日本人のやさしさかもしれません。家族も、当事者のことを思って勧めているのです。でも、それが当事者に我慢を強いている場合もあります。我慢を続けていると、ウツの症状があらわれたり、生きる気力を失って認知症の症状が進んだりすることもあるのです。

 そうではなく、行けば楽しいと感じるカフェにすべきなのです。楽しければ、家族が黙っていても、当事者は自分から行きたいと言うはずです。

 たとえば、野球が好きなら、テレビで野球観戦ができるカフェもいいし、サッカー場のミーティングルームを借りて、サッカー好きの当事者だけでサッカー談義ができるカフェもいいでしょう(スコットランドにありました)。あるいは、お茶とケーキが出て、女性の当事者だけでおしゃべりができるカフェも面白いですね。スポーツが出来るのカフェもいいと思います。認知症の人だけを集めてやろうとするからおかしなカフェになるのです。

 はじめてのスコットランドの旅で、イングランド北東部のヨーク市にあるアロマカフェに行きました。認知症カフェなのに、外観も内部も普通のカフェとまったく変わりません。

一見すると、普通のカフェと変わらない/川村雄次氏より提供

 なにが認知症カフェなのかというと、ここで働いている人が認知症について学んでいるというだけなのです。だから、利用しているのは認知症の人だけではありません。認知症に関心のある方や、ボランティアで働いている当事者もいますが、普通のお客さんもいます。どこから見ても普通のカフェなのです。

 ここでは、だれが当事者かなんて尋ねられません。認知症の人が来て、困っていれば手助けをすればいいのです。だから、当事者も普通のお客さんも、のんびりとコーヒーを飲みながらおしゃべりしています。

 これらの認知症カフェが、認知症にやさしいかどうかは、当事者が決めるそうです。やさしいと思ったら「Dementia Friendly」というステッカーを渡して貼ってもらいます。これならば、日本でもすぐできるのではないでしょうか。

アロマカフェの店内/川村雄次氏より提供