文春オンライン
39歳の認知症当事者がスコットランドを旅して分かった「認知症にやさしい社会」

39歳の認知症当事者がスコットランドを旅して分かった「認知症にやさしい社会」

認知症当事者3人のスコットランドの旅 後編

2017/07/18
note

認知症でも免許更新が出来るイギリス

 先ほど話に出た運転免許といえば、スチュワートさんという認知症の方と再会しました。

 日本では認知症と診断されると車の運転ができなくなりましたが、イギリスでは、免許証の更新時に実技のテストを受けて合格すれば運転を続けられます。スチュワートさんもまだ運転していて、昨年9月に会った時、同行した山崎先生が、「更新できなかったらどうしますか?」と尋ねたら、すごく悲しい顔をしていました。本人は更新する気マンマンだったのです。

 今回の旅で再会したら、案の定というか、まだ運転しているそうで、「免許を更新したよ」と自慢していました。

ADVERTISEMENT

 オーストラリアのクリスティーン・ブライデンさんも、認知症と診断されてから22年経っていますが、今も更新して運転しています。もちろん遠くへは行かず、運転するのは自宅の周辺だそうです。

 スチュワートさんも、今も元気に運転しています。自分の行ける範囲は自分で行くと決めているようです。買い物に行ったり、趣味の釣りに行ったりしていると言っていました。

 私はだんだん頭が疲れるのが早くなってきて、今は1時間もすると計算などの難しい仕事ができなくなります。「大変なんだよね」と言っても、妻に「働きなさい」と言われたら、やっぱり出社します。でも中には働けない人もいるはずです。同じ認知症といっても個人差があるのです。車の運転も同じで、運転できる人もいれば、できない人もいるのですから、公平に実地試験を受けさせて、合格すれば信じてあげるというのも大切ではないでしょうか。

各地域に60ある当事者団体

 もうひとつ、スコットランドでうらやましいと思ったのは、地域のワーキンググループで発言している人がものすごく多いことです。「家族の会」のようなところではなく、当事者だけのワーキンググループが各地域に60もあるのです。これらは、「自分の気持ちを伝えたい」「社会を変えたい」ということで、当事者が集まって自主的に作ったものです。

ワーキンググループの皆さんと/川村雄次氏より提供

 日本では当事者の話し合いの場はほとんどなく、集まるところではなく集められる居場所が多いと感じます。

 スコットランドのワーキンググループに参加したことがありますが、当事者が主体になって、当事者だけでやっていました。家族もほとんど来ていません。司会やボランティアが2~3名いるだけで、コーヒーやお菓子を出してくれるのも当事者でした。

 ここでは、サンドイッチなどを食べながら、みんなでワイワイ話すのがいいという考え方でした。コーヒーを入れるのも、また暑くなると、換気するのも当事者です。すべて当事者が中心になってやっていることがすごく素敵だと思いました。