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恩田陸×仲道郁代スペシャル対談 「蜜蜂と遠雷」を聴いて楽しむ

「第156回直木賞」と「2017年本屋大賞」ダブル受賞の快挙を達成した『蜜蜂と遠雷』。国際ピアノコンクールに挑戦する4人の若者を描いた美しく厳しい物語だ。このたび作中のコンクール演奏曲51曲(129トラック)を収めた8枚組のコンピレーションアルバム企画が実現した。音なき小説世界に音楽を鳴り響かせた本作、著者は何を思って曲を選び、演奏者はどのように読み、聴いたのか。


仲道 『蜜蜂と遠雷』、大変に興味深く拝読し、お目にかかるのを楽しみにしていました。

恩田 私はもうドキドキで。実はこうしてピアニストの方とお話をするの、初めてなんです。どんなふうに言われるかと思うと、それが不安で……。

仲道 えっ、そんな、読みながら、私はほんとうに嬉しかったんです。私が大切にしたいと思う音楽の深いところを丁寧に言葉にしてくださって、読みながら想いがいっぱいになりました。

恩田 ああ、よかった! 素直に嬉しいです。

仲道 音楽って、普通は言葉にすると陳腐になってしまいがちでしょう。

恩田 難しいですよね。

恩田 陸
作家/宮城県生まれ。92年のデビュー以来、数々の話題作で受賞多数。本年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞を受賞。大学時代はビッグバンドでアルトサックス担当。

仲道 恩田さんは、音楽をこうだ、と決めつけず、読み手の想像力を喚起させる言葉で書いてくださった。私のような演奏家にとって、それが大変にありがたかったんです。

恩田 ベートーヴェンはこう、ショパンはこうだ! そんな畏れ多いこと、音楽の素人にはとても書けませんから。

仲道 どう聴くのが正解ですかって聞かれたら、プロの演奏家だって困ります。音楽が主語ではないんですから。主語は自分、人それぞれで自分がどう感じたか、それこそが大切。

恩田 そのことに関連して、仲道さんにぜひ伺ってみたかったのは、感覚を大切にする一方で、楽譜はあるし、曲の時代背景も把握しないといけませんよね。それらをどのへんで両立させるのでしょう。

仲道 音って感覚的なものだから、最終的には感覚の世界に戻すんですが、でも、やっぱり言葉を使わないと、人って深くまでは考えられないんですよね。

恩田 なるほど、言葉でね。

仲道 音に込められた、言葉にできないような気持ちや感覚を、あえて言葉で一生懸命に考えた挙げ句、最終的には放るんです。音の純粋さを信じ、自分を信じて弾くんです。

恩田 ああ、面白いです!

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