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恩田陸×仲道郁代スペシャル対談 「蜜蜂と遠雷」を聴いて楽しむ

演奏中のピアニストは何を考えている?

恩田 すると気になるのが、演奏中のピアニストの頭の中なんです。仲道さんはどんなことを考えて演奏なさっていますか。

仲道 私の場合、練習では譜面を読み込み、作曲者の意図や曲のイメージを膨らませます。でも演奏中は逆です。

恩田 えっ、そうなんですか!

仲道郁代
ピアニスト/87年にヨーロッパと日本で本格的な演奏活動を開始。古典からロマン派まで幅広いレパートリーを持ち、人気、実力ともに日本を代表するピアニスト。

仲道 演奏中に次々イメージが浮かんでいるようでは駄目で、弾きながら「ああ、きれいな月夜」とか思った瞬間、音の純粋性は失われます。私の思いに音楽が閉じ込められ、小さくまとまってしまうんですね。いちばんは、音を聴いてまた次の音を出す。一音ごとに純粋な音になっているか聴きながら弾いている状態です。事前に言葉で考えたイメージや解釈を、演奏では、また音に返すんです。

恩田 なんか今のお話、すごく納得しました。音を閉じ込めないで、いかに広い世界へ連れ出すかというのは、この小説のテーマでもありますから。いや、ものすごく勉強になります。

仲道 この小説はピアノの国際コンクールが舞台ですが、課題曲はどのように決めたんですか。

恩田 浜松国際ピアノコンクールに通って参考にしました。でも基本は、私の好きな音楽家や曲で構成しました。

仲道 小説は大ベストセラーで、今回の同名のCDセットもまた好評だそうですね。

恩田 お陰様で、仲道さんはじめ、世界の名だたるピアニストの音源をCD8枚組にコンピレーションしていただきました。

仲道 通常は作曲者や演奏者ごとに編集されるのが一般的ですが、このピアノ全集では……。

恩田 そうなんです、『蜜蜂と遠雷』に登場する四名のピアニストごとに、彼らが作中で弾いた曲を弾いた順に、すべて収録しているんです。

仲道 とってもユニークですよね。これなら本を読みながら、あたかも物語に入り込んだように、曲を聴くことができます。なんて贅沢な読書でしょう!

恩田 本が出た当初は、YouTubeで曲を探して聴いている方もものすごくいっぱいいらしたようなので、これで思う存分、小説と音楽、両方の世界に没頭していただけるかと。

仲道 音楽ファンにとって、こんなに幸せなことはないですよ。

恩田 仲道さんには、作中で栄伝亜夜が二次予選で演奏する、メンデルスゾーン「厳格なる変奏曲」と、高島明石の同じく二次予選、ショパンの「エチュード第5番/黒鍵」で参加していただきました。どちらも素晴らしい演奏です。

仲道 ありがとうございます。私の演奏は読者の方のイメージと合っていたかどうか。

恩田 私はバッチリでした。

仲道 よかったです(笑)。

恩田 ショパンのエチュードを弾かれているのは、ショパンと同時代のピアノだそうですね。

仲道 はい、1842年製のプレイエル社のピアノです。

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