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ループ量子重力理論とは? 物理学の歴史をたどる

池内了が『すごい物理学講義』(カルロ・ロヴェッリ 著)を読む

2017/07/24
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『すごい物理学講義』(カルロ・ロヴェッリ 著/竹内薫 監訳/栗原俊秀 訳)

 物質の根源は何であるか。この疑問は古代ギリシャの自然哲学者たちが提起して以来、今も多くの物理学者が挑戦し続けている難問である。私たちが生きるこの宇宙そのものの起源の問題でもあるから、「私たちは何処より来たのか」という問いへの答探しとも言える。

 現在の物理学では、強い重力場を記述する一般相対性理論と微視的世界の物理法則である量子論が確固として成立し、それぞれ別個に成功を収めている。ところが、物質の根源を論ずるためには、一センチの一兆分の一兆分の一〇億分の一程度のサイズであるプランク長と呼ばれる超微視的世界に分け入らねばならず、そこでは素粒子自身が作り出す重力場は非常に強く、一般相対性理論と量子論の双方が対等に寄与する運動理論を構築しなければならない。それが量子重力理論で、宇宙の誕生を記述する究極理論と目されている。

 本書は、「ループ量子重力理論」を研究するロヴェッリの物理学入門の書で、物理学の歴史をたどるうちにループ理論に導かれていくという巧みな工夫がなされていてわかりやすい。

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 彼は、古代ギリシャのデモクリトスによる無限の空間に原子が自由運動しているという描像が物理学の出発点と説く。その後、ニュートンの絶対時間・絶対空間における粒子の運動、ファラデーとマクスウェルの場の概念の提唱、アインシュタインの特殊相対論的要請を満たす共変的な時空間への拡張、その共変場における量子論的粒子の運動、という歴史をたどる。ならば空間も時間も連続的ではなく離散(量子)的で、決定論ではなく確率的とすれば、一般相対論の時空間と量子場が合体させられるだろう。その自然な帰結として、有限のサイズの(粒のような)空間と一方向には流れない時間という量子的な時空、つまりループにたどり着くというわけだ。

 日本ではあまり紹介されていないループ量子重力理論の入門編として読むことができ、興味がそそられた。

Carlo Rovelli/1956年イタリア・ヴェローナ生まれの物理学者。〈超ひも理論〉のライバル〈ループ量子重力理論〉の研究者として活躍している。本書でメルク・セローノ文学賞、ガリレオ文学賞を受賞。

いけうちさとる/1944年兵庫県生まれ。天文学者。総合研究大学院大学名誉教授。近著に『ねえ君、不思議だと思いませんか?』など。

すごい物理学講義

カルロ ロヴェッリ(著),竹内 薫(翻訳)

河出書房新社
2017年5月22日 発売

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