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特集
「哲学」の時代 哲学者連続インタビュー

辻本 力
2017/08/15

悩んでフリーズするのが哲学者の仕事ではない

――近年、「文系学部廃止論」のようなものが語られ、文系学部への風当たりが強まっていますが、そうした流れについて、一大学教授としてどのように考えていらっしゃいますか。

 「大学で学ぶこと=すぐに役に立つ、食い扶持に繋がる」というのを求め過ぎていますよね。そういう短期的な視点も必要だけど、もっと長期的に問題を考える力も必要だよということを、もっと言っていかないといけないと思います。例えば文化論みたいな、一見すると趣味みたいに思える分野も、新しい企画や、組織のマネジメントについて考える時には極めて有用なのです。文系学問が思考力のベースを鍛える上で大事であることは、もっと言っていくべきでしょう。

――役に立つということを、もっと積極的にアピールしていくべきである、と。

千葉 もっとも、それだけでは不十分です。「学ぶこと」の有用性以外の価値について、もっと根本から考え直すというか、人文系を再定義するような仕事が必要なのではないでしょうか。じつは、僕の次の哲学的な仕事では、そこに繋がる考察をする予定です。もう少し言えば、それは、「人文系“も”役に立つよ」という話を越えるためのプロジェクトです。ともかく、「無駄なものだからこそいい」とか言っているのでは、単に無能なだけです。プレゼン能力がありません、と言っているようなものです。

――こうしてお話を伺っていると、多くの人が思い描くであろう哲学者像に比べて、千葉さんはものすごくアクティブな印象を与えるかもしれませんね。

千葉 哲学の本質主義者みたいな人の存在によって、巨大な謎にぶつかって悩んで悩んでフリーズすることこそが哲学だ、みたいなイメージが定着しているきらいはありますね。巨大な謎を相手にするというのはそうなんですが、でもフリーズしてしまう前に、哲学者は、工夫して議論を組み立てているのです。言語を駆使して。そういう建設的に働いている面をアピールした方が、哲学の一般的印象も良くなる気がするんですけどね。

――確かに哲学には「わからない……」と立ち止まっているようなパブリックイメージがあるかもしれないですね。

千葉 でも、じっさいにはぜんぜんそんなことはなくて、立ち止まっているどころか、むしろメチャクチャ動き回っている。図を描いたりして手をひっきりなしに動かしている。概念の職人として、労働を日々たくさんしているのです。

©石川啓次/文藝春秋

ビデオゲームで知った「バーチャル」

千葉 「仮想通貨を作る」という話をしましたが(第1回参照)、振り返るとあれはすごくいい話でしたね。『勉強の哲学』に絡めれば、「勉強とは、仮想通貨を作ることである」とも言えるでしょう。そうそう、別のエコノミーを作るという意味では、「現政府に文句があるなら、自分で作ってしまえばいい」と、自らを初代新政府内閣総理大臣に任命した坂口恭平さんの考え方に近いかもしれない。彼は僕とまったく同じ1978年生まれですけど、もしかすると世代的な共通性があるのかもしれないですね。

――具体的には何だと思いますか。

千葉 「バーチャル」という概念が出始めた時代に多感な時期を送ったこととか。なによりビデオゲームの存在ですね。僕が幼稚園の時に任天堂のファミリーコンピュータが発売になり(1983年)、この現実世界にちょうど薄皮が1枚被さるような形で、スクリーン上の別な世界が現れました。そしてそこは、現実とは別のルールで動いていた。ビデオゲームという、切り離された可能世界のビジョンを目にしたことで、僕たちのなかに「この世界をゲーム的に別の仕方で経験したい」という欲望が生まれたのではないかと思います。

――でもファミコンは、それこそ外側から与えられた、既存のルールにのっとった遊びですよね?

千葉 でも、別のカセットを入れれば別のルールになる。ルールの複数性、切り替え可能性がポイントです。それからビデオゲームといえば、「面」というのも重要です。あの「○面クリアした」という時の面。ゲームを通して世界の新しい面が見えた、という経験が、僕たち世代に与えた影響は大きかったはず。で、僕の場合は、買ってもらったゲームでそれを見るだけではなく、自分で世界の新しい面を作ってやろうと考えた。そもそも、あの頃はカセットが高価だったから、たくさん買ってもらうことはできませんでした。自分でゲームを作ったりしていたのも、その代償行為だった。この点でも、抑制は大事ですね。何でも好きに手に入るわけじゃないから、自分でゲームを作ろうとする。

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