文春オンライン

新浪剛史の教え#9「AIとリベラルアーツ」

私はこう考える――新浪流・乱世を生き残るための教科書

2017/08/10

 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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AI時代に求められるもの

 AIの進化に対して、どんな職業がなくなり、何をすれば生き残ることができるのか。最近、いろんな場で議論がなされています。では、我々はAIにどう対処していけばいいのでしょうか。実は、私はAI時代に求められるものこそ、人間がよりヒューマンになることだと考えています。それは、自然と人との関係や人情、または人の気持ちを推し量る力を高めることだとも言えます。

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 これからディープラーニングは間違いなく進化していくでしょう。しかし、「あの人にはオーラがある」という感覚は、コンピューターには絶対にわからないはずです。人間が本来持っている最終的な根っこの部分はAIにはわかりません。だからこそ、人間らしさがますます必要になってくると言えるのです。

 その意味で、これからは自然に触れて感動する、歴史を勉強する、音楽やアートを勉強する。そうしたリベラルアーツというようなものが、ますます重要になってくるでしょう。それらに習熟した人をリーダーとして育てていくことが必要になってくると考えています。

 それは、むしろ当然のことです。テクノロジーが発展すればするほど人間というのは逆にヒューマンなものを求めるからです。

AIでは出来ないことが人間にはある ©文藝春秋/石川啓次

ひらめきを生む人はたいてい感受性の強い人

 一方でテクノロジーをやりたいという人たちもたくさん出てきています。プログラミングやデータ処理をするITリテラシーを高めることは、むろん必要なことです。でも、気を付けなければならないのは、ITに行き過ぎると非人間的になってしまうことです。だからこそ、人間的なところともっと接点を持たせるべきなのです。

 実は科学者の中でも、文学やアートを理解し、リベラルアーツを是とする人たちのほうが成功しています。科学で大事なことはひらめきです。そのひらめきを生むためには研究の積み上げも必要ですが、どこかで突然脳が覚醒するようなひらめきは、様々な視点を育むリベラルアーツがもたらしてくれます。ひらめきを生む人はたいてい感受性の強い人です。リベラルアーツを理解しているし、サイエンスもできる。ITに特化するよりも、そうした人材を今後育成していくべきなのです。

 本来であれば、大学4年間でリベラルアーツをやればいいのです。正直に言えば、大学に入る前に、本当は自分が何をやりたいのかなんて、わかるわけがないのです。大学に入ってから、場合によっては4年間徹底的にリベラルアーツを勉強する。そのあとで、自分は法律をやりたい、医学をやりたい、ビジネスをやりたいと決めればいいのです。