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八谷 和彦
2017/07/31

ナウシカの「メーヴェ」を作った男が誤解していた「ライト兄弟の本当の姿」

八谷和彦が『ライト兄弟』(デヴィッド マカルー 著)を読む

『ライト兄弟』(デヴィッド マカルー 著 David McCullough 原著 秋山 勝 訳)

 ライト兄弟のことは実はそんなに好きじゃなかった。黎明期の航空家で好きなのはアルベルト・サントス=デュモン。どちらかというと冒険家タイプで、何かロマンを求めて空を飛ぼうとする人たちに魅力を感じてました。

 以前のライト兄弟のイメージは「固くて真面目な人たち」。ネガティブな面だと「自分たちの特許にこだわり、独自機構を他人が使うことに否定的だった」とか「飛行機の売り込み先として初飛行直後から各国の軍に対してアプローチをはじめた」とか。

 そんな彼らに関する印象が、本書を読んで一変してしまいました。本書では兄弟に加え、妹や父との書簡を通じて、彼らの人格や性格を炙りだして行きます。

 私自身14年間にわたり「風の谷のナウシカ」に登場する架空の飛行機を作る、という活動をしているのですが、実はその手法の多くは、彼らのとったやり方とそっくりだったりします。例えば「実際に開発者がテストパイロットとして飛ぶ」とか「グライダー版を作って試験を十分に行ってからエンジン付き機に移行する」とか、自分の商売(彼らの場合は自転車屋、僕はポストペットなどソフトウェア開発)で資金を稼ぎ、政府や軍のお金には頼らないなど、その過程で起こる失敗含めて彼らにすごく感情移入してしまいました。それらライト兄弟の行動は実は彼らの性格や育った環境によって選択されたということが明らかになっていきます。

 また、実際のところ彼らの偉業は兄弟だけでなされたわけではありません。試験飛行にどのような人たちが協力したのか。「友人が少ない」を自称する彼らですが、単なる変わり者ではなく彼らの仕事への忠誠心が多くの協力者をひきつけ、結果として人類最初の動力飛行に到達した背景を、膨大な資料や手紙を元に構成してあります。なにかを成し遂げるというのが具体的にどういう活動になるのか、それを知りたい人にはおすすめの一冊です。

David McCullough/1933年米国生まれ。作家・歴史家。雑誌編集を経て68年より執筆活動に。2度のピュリッツァー賞のほか各賞に輝く。本書は2015年ニューヨークタイムズ・ベストセラー7週連続1位に。

はちやかずひこ/1966年佐賀県生まれ。東京芸大准教授。主な著書に『ナウシカの飛行具、作ってみた』(共著)など。  

ライト兄弟: イノベーション・マインドの力

デヴィッド マカルー(著),秋山 勝(翻訳)

草思社
2017年5月18日 発売

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