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西部劇さながらのディストピア世界

『罪の終わり』 (東山彰良 著)

source : 週刊文春 2016年7月7日号

genre : エンタメ, 読書

ひがしやまあきら/1968年台湾生まれ。5歳まで台北で過ごし、9歳で日本に移る。2003年『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞を受賞。13年『ブラックライダー』が「このミステリーがすごい!2014」第3位となる。15年、『流』で直木賞を受賞。

「もともと、『夕陽のガンマン』シリーズやコーエン兄弟の『トゥルー・グリット』といった西部劇が大好きで、いつか描いてみたいと思っていたんです。ただ、アメリカ人でない僕が外野から西部劇を書いても嘘っぽい。いっそ文明が滅んだ後の世界でSFにすれば寓意を込められるのではないかと。ヨハネの黙示録の四騎士からとった“黒騎士(ブラックライダー)”が、食人行為のまかり通る終末世界で神格化されていくプロセスを物語にしました」

 直木賞受賞後第1作となる『罪の終わり』は、東山彰良さんが2013年に発表した『ブラックライダー』の前日譚。黒騎士ナサニエル・ヘイレンが白聖書派教会の暗殺者“白騎士”に追われる、ロードムービー仕立てのハードボイルドだ。

「西部劇の中のお伽噺的な要素――ならず者たちの伝説に強く惹かれてきたんですね。『明日に向って撃て!』のブッチ・キャシディとサンダンス・キッドのような愛嬌のある大悪党に(笑)。伝説的悪党やアウトローは、自分が伝説になりたいわけでもないのに、ささいな偶然や勘違いが重なって、神格化されることがある。福音書は弟子が語るからこそキリストの主観が排除されて神話的な説得力をもつわけですが、今回はその手法でいこうと。ノンフィクションのスタイルで語り手を別にたてることで、メタ小説のような効果も期待できるのではないかと」

 ならず者たちの荒唐無稽な伝説や怪物的キャラクターの描写には、国共内戦で台湾に逃れた祖父を描いた直木賞受賞作『流』でも高く評価された“過剰なホラ話”を聞く快感もある。

「じつはちょうど台湾版の『流』が刊行されたばかりです。台湾にはあのくらいのホラ話を語れる人たちがごまんといるので、現地でどう読まれるか、楽しみと同時に不安でもあります。『流』もそうですが、口承文学と記述文学とのあいだにフォークロアがあるとするなら、それを現代小説の中に取り込むことで生まれる奇妙な感覚が好きなんです。フォークロアのようなどこにも行き着かないエピソードにふれると、狂おしい気持ちにすらなります」

 翻訳小説を中心とした豊かな読書体験が作家としての可能性を開いてきた。

「キャラクターの作り方はエルモア・レナード、ユーモア感の出し方はチャールズ・ブコウスキーから影響を受けています。死者が生者と入り交じるガルシア=マルケスの四次元的世界は、僕の中のマジックリアリズムの扉を開いてくれた」

〈6.16〉の大災害により文明を失ったアメリカ大陸。恐怖や暴力が蔓延し、人が人を喰らう世界で、罪の子ナサニエル・ヘイレンが誕生する。ナサニエルはしだいに神格化され、黒騎士として悩める者たちの罪の浄化に降り立つ。一方、白聖書派教会の暗殺者が彼を追う――圧巻の黙示録的エンターテインメント!

罪の終わり

東山 彰良(著)

新潮社
2016年5月20日 発売

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