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池上彰×元国連WFPの凄腕リーダー対談#2「修羅場で最強のチームを作る秘訣とは?」

国連WFPの凄腕局長が明かす修羅場のリーダーシップ

note

国連の伝説的リーダーより若い人たちへ

『国連で学んだ修羅場のリーダーシップ』(忍足 謙朗 著)

池上 ちょっと照れくさいんですが、忍足さんが今、高校生時代の自分に言ってやりたい言葉があるとすれば、何ですか?

忍足 「大丈夫だよ。どうにかなるよ」ですかね。けっこう行き当たりばったりに、これまでやってきたもので。決して確固たるプランがあったわけじゃない。

池上 沖縄で言う「なんくるないさー」ですね。今の若者たちは、あまりに「何とかなりそうもない」と思っているから、そう言ってあげたほうがいいのかもしれない。就活で失敗したら、もう人生おしまい、みたいに思っている人が多いらしいし。

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忍足 僕は結果的にそう学んだということですね。いろいろヤバい現場で仕事をしてきて、それでも何とかなるものだよと。

池上 「身を立て、名をあげ、やよ励めよ」という時代じゃないですからね。

忍足 でも、どこかでポンっと花咲くときがあるんですよ。突然、いろいろ回り出すというような。それは計画していても、どうにもならないことですが。

池上 私もNHKに入ったときの「将来計画」はあったんですよ。社会部の記者として何か専門を極め、解説委員になり、定年退職したら女子大の教授になるという。東工大の教授になったら、それを知っていた人に「女子大に行くはずが、男子大学に行きましたね」って(笑)。 NHKにいたとき、人事考課で毎年「将来は解説委員になりたい」って書いていたら、廊下でばったり解説委員長に出会い、「おまえ、解説委員にはなれないからな」と言われたんです。「おまえに専門性はないだろ。専門性がないと解説委員になれない」と。

忍足 そんなことがあったんですね。

池上 「週刊朝日」に「池上彰がNHKを辞めた理由」って書かれたけど、解説委員になれないならNHKにいてもしょうがないと思ったんですよ。俺はたしかに専門性がないけど、「週刊こどもニュース」で培った「いろんなことをわかりやすく説明する」という専門性はあるんじゃないか、今後はそっちで生きていこうと決意したわけです。

忍足 最後に一つだけ聞きたいのは、池上さんは本当に例外的な方で、世界で起きていることをわかりやすく話されるじゃないですか。でも全体として見れば、日本では本当に国際的なニュースがほとんど報道されていないのではないですか?

池上 そのとおりです。

忍足 メディアの人は「日本の人たちに、そういう話をしてもあまり興味ないし」と言うけれど、僕は「あなたたちが伝えないから興味をもたないんでしょ」と言いたい。興味をもってもらうには、池上さんのクローンをたくさん作るしかないんですかね。

池上 要するに、わかりやすく説明すれば、みんな観てくれるんですよ。私が民放で仕事ができているきっかけは、もう打ち切りが決まっていた「学べる!! ニュースショー!」というテレビ朝日系の番組で「イランの大統領選挙」をわかりやすく解説して、すごく高い視聴率を取ったからなんです。その後、パレスチナ問題や沖縄の普天間基地の問題を取り上げ、基地問題では視聴率が14パーセントを超えた。ゴールデンタイムで国際情勢をわかりやすく解説するというのが、新鮮だったんでしょう。それまでは「ニュースショー」といってもペットなどをテーマとするバラエティだったのが、私がニュースを解説する番組に差し替わったんです。ゴールデンウィークの2時間の特番で1番高視聴率だったときの解説は何だったと思います? 「原爆にはウラン型とプルトニウム型があります」というテーマですよ。2時間の平均視聴率が23パーセントでした。

忍足 国際支援という問題を、池上さん流にわかりやすく解説すると、どうなりますか?

池上 何年か前、毎日小学生新聞の連載コーナーで、読者の小学生から「日本はお金がないのに、なんで外国に援助をするんですか?」という質問が来たんです。そのとき、こう答えました。 「きみたちのお父さんやお母さん、さらに上のおじいちゃんやおばあちゃんの世代のとき、日本は貧しくて食糧がなかった。そんな時代にユニセフなどいろいろな海外からの援助があり、学校給食に脱脂粉乳が付いたりして、栄養を摂ることで生き延びることができたんだよ。その人たちが生き延びたから子供が生まれ、さらにその子供が生まれて、きみたちが存在するんだ。国際支援によって、きみたちは今、この世に生を受けているんだから、その恩返しをすることは必要なんじゃないかな」

忍足 なるほど。

池上 アセアン諸国が経済的に潤ってきたから、日本に大勢の観光客が来るわけでしょう。それは戦後、日本が東南アジアにいろんな支援をしてインフラ作りを手伝った。そうした国の人たちが今、日本に来て、お金を落としてくれている。まさに「情けは人のためならず」なんですよ。

忍足 それは説得力がありますね。   

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おしだり・けんろう

1956年、東京都生まれ。国連世界食糧計画(国連WFP)元アジア地域局長。School for International Training(アメリカ・バーモント州)で国際行政学を学び、修士号取得。30年以上にわたり国連に勤務し、人道支援、開発支援の現場で活躍。WFPでは、ボスニア紛争、コソボ紛争などの紛争地、カンボジア、スーダンでも大規模な緊急支援の指揮をとる。北朝鮮の食糧支援にも関わり、何度も視察に入った。2015年に帰国し、国際協力に興味をもつ若い世代の育成に貢献している。TBS「情熱大陸」やNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演し話題となった。

 

いけがみ・あきら

1950年生まれ。長野県出身。73年にNHK入局、2005年よりフリーに。名城大学教授、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特命教授。「文春オンライン」の「聞いてみた!」シリーズも好評公開中。

©杉山秀樹/文藝春秋

国連で学んだ修羅場のリーダーシップ

忍足 謙朗(著)

文藝春秋
2017年8月8日 発売

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