文春オンライン

ハゲはほんとに治るのか?#1 「薄毛治療の第一人者が20年間飲み続けている薬」

「このハゲ──ッ!」がグサッと胸に刺さったら 

2017/08/13

「このハゲーッ!」。この6月から7月にかけて、ワイドショーで何度、豊田真由子衆議院議員の怒鳴り声を聞いたことでしょう。そのたびに、グサッと胸に刺さった男性も多かったはずです。男性型脱毛症(AGA)に悩む日本人男性は1300万人以上で、4人に1人(26.7%)と推計されています(2007年アデランス調べ)。どうすれば薄毛のコンプレックスから解放されるのか。薬による治療から文化論まで、薄毛治療の第一人者である東京メモリアルクリニック・平山の佐藤明男院長に、「週刊文春」や「文春オンライン」の医療記事でもおなじみ、ジャーナリストの鳥集徹さんが迫ります。

◆◆◆

──まず、佐藤先生が「薄毛」の研究に興味を持ったきっかけを教えてください。

ADVERTISEMENT

佐藤 1998年から英国のオックスフォード大に留学していたのですが、それがちょうど薄毛の治療薬である「フィナステリド(商品名・プロペシア)」が、ヨーロッパで前年に認可されたばかりだったんです。それまで、ハゲは治らないものだと、みんな思っていました。ところが、その発売開始記念セミナーを見に行って、「ハゲも薬で治る時代になったんだ!」と衝撃を受けたんです。

──その当時、日本ではフィナステリドは使えなかったんですよね。

佐藤 日本では遅れて、2005年に認可されました。でも、私は日本で認可される6年前の99年に帰国して、当時、非常勤として勤めていたこのクリニックで使い始めたんです。そしたら、この薬を製造販売するメーカーが私のことを知って、「薄毛の専門家として話してください」と依頼されたんです。いろんなところで講演するようになったら、余計に患者さんが来るようになって、このクリニックがハゲのメッカのようになっちゃった(笑)。

「スキップして帰ります」「結婚できました!」という患者さんも ©佐藤亘/文藝春秋

──その頃は日本では未承認の薬だったわけですが、患者さんの名前で個人輸入するかたちで始めたんですか?

佐藤 そうです。医師のライセンスを使って米国の薬問屋から買うんですが、なかなか手続きがややこしくて、FDA(米国食品医薬品局)だけでなく、FBI(米国連邦捜査局)にも登録しました。要するに、薬の国際間取引をするには、僕が医師であって怪しい人間ではないことを英語の書類を作って証明する必要があるんです。さらに、日本に入れるときには薬事法(当時)があって、それに基づいて厚生労働省の薬務局に申請する必要がありました。

──現在は多くの医療機関で使える薬ですが、当初は入手するだけで大変だったんですね。苦労をされただけの効果は実感されましたか?

佐藤 それはもう、よく効きましたよ。(パソコンのモニターでビフォーアフターの写真を示しながら)たとえばこうなったり、これがこうなったりとかですね。毛髪が増えた頭の写真を見せたら、患者さんがみんなニンマリして、いい年をしたおじさんが、「今日はスキップして帰ります」とか言って。

20代の患者さんはたくさんいる。中には10代も……

──左の人、すごいですね。誰が見ても薄毛だったのが、ハゲとは言えない状態まで回復している。どれくらいの期間で、ここまで回復するんですか?

佐藤 毎日薬を飲み続けて、年単位はかかります。この人で、ここまで生えるのに5年かかりました。そもそも薄毛自体、年単位で進行していきますから。この方、受診したときは、21歳だったんですよ。

21歳で受診した患者さんは5年でここまで回復した 写真提供:佐藤明男

──え!  21歳なんですか(絶句)。ご本人は辛かったでしょうね。

佐藤 20代の方なんて、たくさんいますよ。中には10代の人もいます。それはもう、みなさん必死です。

──21歳でこんな状態だったのが、5年後には薄毛とは言えないほど回復したわけですよね。患者さんの反応はいかがでしたか?

佐藤 それはすごい喜びようでした。それまで、「もうハゲは治らない」と思い込んでいるわけですから。最初はみなさん、「ハゲを治す薬があるならやってみようか」という感じで、半信半疑で受診されるんです。